ようやく小さい音が聞こえると、顔に液体をかけられた。
 顔を拭って目を開けると、突っ伏すように殺し屋が倒れていた。
 よろよろと刀を使って立ち上がると、もう一度私に向かって刀をついた。
 その時。
 また大きなドンッ、という音がして、殺し屋はベッドの方へ吹き飛んだ。
 ドアが開いて、そこには長い金属の筒が出ていた。
『誰に雇われた?』
 筒が降ろされると、ドアから現女王が入ってきた。
『お前は誰に雇われた?』
 殺し屋が握っている刀に向かって、金属の筒を振り下ろす。
『グアッ……』
 たまらず刀を離すと、その筒で刀をころばした。
「女王……」
『分かっている。見当はついているが、証拠がないのだ』
 足の根本に向けて筒を構える。
『誰に雇われた? 言わねば撃つぞ』
 数字を言うと、容赦なく撃ち抜いた。
『さあ、もう一本やるのか?』
 反対の足を向けて構える。
「も、もう意識がなくなってます…… 死んでしまったのかも」
『……あなたに引き渡す世界で誰に狙われているのか。それは判ったわね?』
 私はうなずいた。
『ここで証拠を得て、裁いてしまえば簡単だったのですが』
「私と女王しか聞いていないですよ」
『それで充分だったんです』
 気づくと、ドアのところに甲冑の男が立っていた。
 ゆっくりと扉を開けると、片手に人を引きずっていた。
 さっきの殺し屋の片割れだ。
『そちらは何か話しましたか?』
『いいえ』
『これではこちらの世界にきたくなくなってしまいますよね』
 女王は私の方を見て言った。
「けれど、元の世界も死とは向かい合わせなのは変わらないから」
 いや、どうなんだろう…… 同じくらい? こっちの方が良い死に方ではないかもしれない。
『この世界に来る前に、先にこの筒のさばき方を教えておきます』



 目が覚めた。
 そこは見慣れた自分の部屋だった。
 しかし、この世界で、私は後はもうコードを読むだけの存在になっていた。
 こちらの世界がどうなってもいい、そんな気がしたのだ。
 あの後、女王に筒の使い方を教えてもらった後、私達は街や旧市街を回った。
 向こうの世界で、女王が必要とされていた。
 多くの民が女王の体を気遣っていた。
 なんとなく、もう長くないことが民衆には分かっているようだった。
 そして、迫りくる恐怖も見せられた。
 黒い血を流す、灰色の肌の生き物達がいた。
 幾重かの壁の向こうにいる連中だった。
 ドラゴンの背中から見下ろしてみると、まるで見えているかのように睨み返してくる。
 尽きない憎しみが渦巻いている。
 女王の力が弱まれば、世界は争いに巻き込まれる。
 女王は未来を読めた。しかし、私は……
『あなたの力は、私の代わりができるはずよ』
「コードを読む力?」
『あなたがこちらにくれば、世界のコードを読むことが出来るはず。それは未来を読むに等しい力です』
「世界のコードを読む」
 旧市街や都市部はこの世界のほんの一部だという。
 私の世界と同じような命がここでも生きているのだ。
 もう自分一人の命ではなくなっている。
 私がここで死ぬ訳にはいかない。
 コードを読み、向こうの世界へ行かなければ……
 けれど、すぐにコードが頭にうかんでくるわけではなかった。
 それがいつ浮かんでくるのかが分からなかった。
 現女王が出すタイミングなのか、私の心の整理がついた時なのか。
 何がきっかけで読めるようになるのかは分からないが、次に読めるようになったら、迷わず読まなければならない、と心に決めた。
 数日を家から出ずに過ごしていると、所長から連絡があった。
『光ファイバーのプロジェクトも最終段階なのよ』
「分かってます」
『分かっているのに研究室には出てこないのね』
「それは……」
 私はもうこの世を離れる準備をしているのだ、とは 言えなかった。カウントダウンしているのに、研究に関わったらそれこそプロジェクトの為にならない。