私は上下を着替えると、玄関にある姿見に自分の姿を写した。
「えっ? これって」
 まるでチアリーディングのような格好だった。
 上のタンクトップは何もしなくともヘソが見えてしまうほど短く、見せパンがないと恥ずかしい長さのスカートだった。
「サイズが合いそうなのが、それしかなかったのよ」
「それにしたって。こんな服どこに着ていくんですか?」
「夜街に遊びに出る時? かな」
 声が出ないほど引いた。
 先生は白地にピンクや黒で文字が書かれたタンクトップを上につけた。
 下はやっぱり履いていないような長さのホットパンツ。
「さあ、いいのかな?」
 私はうなずいた。
 先生が靴を出して玄関に降りてくると、いきなり私を抱き寄せて、唇を重ねた。
「緊張しているのね。リラックスしないと、かえって危険よ」
 もし先生が母ならこんなことをして、こんな言葉をかけてくれるのだろうか。
 キスをされたのに、裸を見ていた時の気持ちとは全く正反対の優しい、穏やかな気分になった。
「はい」
 
 
 
「なんだ、|新庄(しんじょう)、呼んでないぞ」
「ワザワザここまで着て着替えさせるなんて、呼んでるのも同じでしょ」
 先生は新庄というのか。
 そう言えば名字も名前も知らなかった。
 先生は助手席側に座った。
「来るものは拒まずだが」
 私は鬼塚刑事の後ろへ乗った。
「相当ヤバいってこと?」
「……」
 鬼塚刑事が黙ってしまった。
 そのままエンジンをかけ、静かに車が動き出した。
「黙らないでよ。|白井(しろい)さんが怖がっちゃうじゃない」
「大丈夫だっ!」
 鼓膜がやぶれそうな大声だった。
「(うるさいわね、わかったわよ)」
 耳がおかしくなって、先生の声が小さく聞こえる。
 真面目に鬼塚刑事の動揺が伝わってきて、鳥肌が立つような感覚をおぼえた。
「で、入る場所はどこなの?」
「セントラルデータセンター」
「〈鳥の巣〉の中心か。白井さんは入ったことある?」
 私は首を振った。
「どうしたの? 聞こえなかった?」
「ごめんなさい。入ったことはありません」
「そう。セントラルデータセンターのことって、もう学校で習った?」
「〈某データセンタープロジェクト〉の日本での中心地だったんですよね」
「そうね。それは最初の最初の情報でしかないけど」
 私は何を答えていいのか悩んだ。
「知っているか聞くことはなかったわね。知っていたとしても、復習ってことで勘弁してね。セントラルデータセンターは、実はまだ〈転送者〉が出て来るの。扉や蓋がわんさか残っている」
「えっ、完全に停止したって」
 そう、セントラルデータセンターは〈某システムダウン〉中心であり、最も〈転送者〉に破壊されたところ。だから、今は完全に停止しているというのが公式な発表だった。
「まだ破壊しつくされていないのよ。〈転送者〉が多すぎて、発生源の扉を全て破壊出来ていない」
「けど、〈転送者〉は現れていないと」
「現れていない、というのもウソじゃないの」
 車は壊れたままのETCゲートを抜けて、〈鳥の巣〉へ向かう高速道路へ入った。
「どういうことですか」
「〈転送者〉が活動出来ない低温の壁で囲って出てこれないようにしているのよ」
「低温の壁……」
「まあ、たまに何匹か詰まってしまうと溶けて抜け出してくるんだけどね」
 新庄先生は言いながら私を見た。
「でかい爆弾でも落とせばいいのに、って顔ね」
「セントラルデータセンターだから、って言って、ちょっと頑丈に作りすぎたみたいなのね」
 手に拳をぶつけて、固いことを強調しているようだった。
「けれど、一部のコンピュータ用の冷却設備が活用出来ることが分かったの」
 くるりと指で輪を描くように手を動かす。
「上のフロアと、こんな風な円形の廊下部分を冷却して、周りに出られないようにしたのね」
 ただ固いだけの壁なら破壊して出てくるだろう。〈転送者〉が冷却に弱いとは知らなかった。
「そんな単純な話だけじゃない」
 急に鬼塚刑事が割り込んだ。
「〈転送者〉と転送のテクノロジーを研究しようとしているんだ」
「そうね。いくら頑丈と言っても限界はあるわね」