鬼塚刑事…… あなた、あなたは何をしていたの?
「鬼塚刑事、なんで助けなかったんですか?」
「待て。落ち着け」
「虎にもなっていない。まるで戦う気がないみたい」
「……」
 急に鬼塚刑事の表情が変わった。
 オーラなのか、何か空気感のようなもので、明らかに気圧されている。
 大きな力を感じ、私は鬼塚刑事を責めることをやめた。
「大丈夫だ。新庄は偵察する為にワザと引き込まれた」
 鬼塚は何かケーブルのようなものを用意し、床下に開いた穴に垂らす。
「聞こえるか?」
「……」
「新庄が情報を送ってくる」
「……聞こえません」
「耳で聞こうとするな。まるでもう一人の自分が考えているような、語りかけてくるようなものだ」
「お前の声は良く聞こえるんだが……」
 ケーブルを鬼塚の体側にも装着すると、穴に入って少し下がった。
「お前は俺の頭に乗れ」
 更に下がって、鬼塚の頭だけが穴から見える。
 私はそこに乗って頭を掴んだ。
「いいか、降りるぞ」
「大丈夫なんですか?」
「新庄はなんて言っている?」
「……」
「大丈夫だ。いくぞ」
 スルスルと下りていくが、穴からの光が届かなくなると、周りの風景が変わらないせいか、下りている感覚が無くなった。
「どこまで降りるんですか? さっきの感じだと高さが合わない」
「……」
 鬼塚はケーブルを緩めては握り、緩めては握りを繰り返し、少し、また少し降りる、というのを続けている。私にとってこの穴の中は、ほぼ暗闇にしか見えない。
『もう少しで底につくわ』
 自分の言葉のようだったが、自分が考えたのではない違和感があった。もしかしたら、これが新庄先生の声なのかも知れない。
『そうよ』
 やっぱり!
「聞こえた! 聞こえました鬼塚刑事」
「……黙れ」
 状況を忘れてはしゃいでしまった自分を反省した。
 カチャリ、と機械音がして止まった。
「ケーブルが終わったんだ。かなり深いぞ」
「どうするんですか?」
「こうする」
 カツン、と音がすると自由落下が始まった。
 鬼塚刑事を突き放す。
 更に落ちていくと、無意識に背中の翼が広がる。
 けれど、一つ羽ばたく前に、足にドンと力が響く。
「痛っったいっ……」
「大丈夫か?」
「大丈夫か、じゃないでしょ。先に言ってよ」
 何か背中に視線を感じて、私は黙った。
「!」
 鬼塚も後ろを振り返る。
 暗く、見えるものが殆ど無かった。
「何かいるの」
「お前は見えないのか……」
 なんとなく鬼塚の体が見えている…… 感じている感じだ。
「スマフォでも何でも、灯りを使え」
 私はポケットからスマフォを出して、ライトを付けた。
「っ!」
 目の前に映ったのは、自分の顔ほどもある蛇の頭だった。
 チョロッ、チョロッと舌を出す。
 慌てて、手を引っ込めようとしてスマフォを落としてしまう。
「シャーッ」
 床に落ちたスマフォの灯りが消えた。
 蛇が上に乗ってしまったに違いない。
 一瞬明るかったせいか、余計に暗さを感じて何も見えない。
 すると宙で灯りがパッとついた。
「私よ」
 灯りは私のスマフォで、画面には新庄先生が映し出されていた。