「せ、先生」
 スマフォを渡された瞬間、その画面には再び大きな蛇の頭が映った。
「!」
「何度も驚かないでよ……」
 蛇がスッと新庄先生の顔に戻っていく。
「自信なくなるから」
「ごめんなさい」
 そうか、これが先生の変身能力なのだ。
「先生、大丈夫だったんですか?」
「うん。私にも逃げるぐらいの力はあるのよね」
「よかった」
 私は先生に抱きつこうと思ったが、さっきの蛇の姿を思い出して、腰が引けた。
「この穴はなんなんだ」
「ここは何の為の穴だかわからないけど、あの爪の怪物が開けたのは間違いないみたい」
「全体は見たのか?」
「見えてない。隊員が殺られたのは五本の指のようね。開いた手のつめで突き刺された…… そんな感じ」
 私はスマフォで上方向を照らしてみた。
 天井に大きな穴が開いており、繋いでいたケーブルの端が見えた。
「相当大きい、それは分かるわ。私を巻き込んだ力からも分かる」
「ここまで叩き落されたんですか?」
 新庄先生は首を振った。
「逃げ回ったら真下方向に穴があったの」
「話してる暇はなさそうだ」
 パラパラとコンクリートや石が転がり落ちる音が聞こえた。
 私は上ではなくその方向にスマフォのライトを向ける。
 大きなウロコで固められている。先は鋭く尖っている。蛇の尻尾? まさか新庄先生?
「来たぞ……」
「これ新庄先生?」
「私はここ」
 新庄先生は人の姿のままだ。
 気を取られている間に、鋭い先端が私に伸びて来た。
 よっ、避けられない……
 いや出来る。私は足を開いて、先端を飛びして避けた。
「助かった……」
 またがった蛇の尻尾のような部分は、ぬめりがあってひんやりしている。
「何っ! まだ伸びてくるの?」
 またがっていた蛇の尻尾が、どんどんんと進んで来て、太くなってきた。
 またがったままの私の足は、両側に広がっていく。
「痛い痛い!」
「ばか、天井の間に挟まるぞ」
 体をねじって尻尾の上を這うようにして、先端に向かう。
 鬼塚刑事は尻尾の先端と格闘している。
 新庄先生は、半身を蛇化し、絡みつくようにして尻尾の動きを止めている。
 私は……
 足の先端に意識を集中して、爪を出す。
 蛇のウロコをめくるように足を突き立てる。
「かっ、固い……」
 ウロコが少しめくれ上がった。
 もう一度!
 足の先が尻尾の柔らかい部分を切り裂いている。
「尻尾が戻る!」
 新庄先生が叫ぶ。
 私の爪が突き刺さったまま抜けない。
「早く!」
「抜けない」
 尻尾は暴れながら通路を戻る。
 私の体は、尻尾がブレる度、ウロコや、通路の壁にぶつかる。
 急に尻尾の動きが止まって体が折れる。
 後ろを見ると鬼塚刑事が尻尾の先端をつかまえて引っ張っている。
『早く抜けっ』
 私はもう一方の足も突き刺し、小さな子供が靴を脱ぐかのように足で足を押さえつけた。
「抜けてっ!」
『何やっているの!』
 新庄先生が後ろから私を羽交い締めして引っ張った。
 ガッツリ食い込んでいた足が、あっけなく抜ける。
 二人は尻尾の上から勢い良く通路の床に落ちていく。
「危ない!」
 私はとっさに羽根を広げて新庄先生を包み込んだ。
 落下のショックだけでなく、暴れる尻尾が翼を痛めつける。
「白井さん、あなた大丈夫なの?」