「そうだ。おそらくまた、今回のような〈転送者〉の先行調査の依頼がくる」
私は車を下りて、鬼塚の目を見た。
「はい。その時は学校に話は通してもらえるんですね?」
「ああ。今日のことももし何か問題になったら俺の名前をだしていい」
私はうなずいた。
「また尻もちつくなよ」
その時、今着ている服が新庄先生からの借り物であること、自分が着ていた服を汚してしまったことを思い出した。
「あっ、忘れてた!」
「新庄が学校で返すって言ってたぞ」
「えっ、これで寮には帰れ……」
鬼塚に言ってもしかたないことだ。私は言いかけてやめた。
「この穴から戻ったら、また汚れちゃう」
「それもそうだな」
鬼塚がベルトを外し、シャツとスラックスを脱ぎはじめた。
「な、何するんですか?」
「俺が下に入るから背中をつたって行け」
鬼塚がパンツだけになると、素早く穴の中に入っていった。
ちらっとだが、股間を見てしまった。
あんなふうに膨らむものなんだ…… と思った。サイズはよくわからなかった。
そもそも鬼塚は二メートル二百キロの男だ。
穴を覗き込むと、力の入った足が突っ張っていた。
「乗っていいんですか?」
「ああ」
私はよく考えもせず、穴の縁から踵のあたりに飛び降りた。
「おいっ!」
「ご、ごめんんさい」
「乗ってくるにしたって、場所ってもんがあるだろう」
「痛かったですか」
「まあ、いい。早く寮に戻れ」
頭を下げて、鬼塚の背中を伝い、肩のあたりまで這っていく。
「そこで止まれ」
鬼塚がゆっくり穴の中で立ち上がると、私はそのまま寮の側の穴の外にでた。
ゆっくりと、寮の中に足をつけると鬼塚が「じゃあな」と言って穴の中に戻った。
「雨が入らないように、蓋をしておけ」
「はい」
休みの日とかに、ここに蓋をしにこないといけないな。ポリバケツの蓋とかではとても塞ぎきれない。かなり大きなものを探してこないと。
私はスマフォで、そこの穴の写真を取ってから、寮へと歩いた。
寮監がいれる暗証番号を覚えていて、それを入れると寮の通用口の扉が開いた。
そっと開けて、頭だけ中に出して、周囲に誰もいないことを確認する。
靴を脱いで寮に入り、下駄箱に脱いでいた服の袋を取って、部屋に戻った。
部屋の灯りを付けずに、袋に入っていた部屋着に着替えた。
二つの二段ベッドがあり、奥の二つにはミハルとチアキが寝ているのが見えた。
着替えを同じ袋に入れて、明日、学校に持っていくようにバッグに入れた。
そして、自分のベッドに入った。
温かい。
なんか変だ、と思い、目を見開くが誰もいない。
あちこち手を伸ばすが、誰かが寝ていたように範囲が温かい。
確かにこれはベッドの下の段で、こっちは私とマミの方だった。
うん。問題ない。
疲れと怪我、ベッドに残る温もりのせいで、私はあっという間に寝てしまった。
『ママ……』
空港で手に入れた、過去の動画。
映っていた母親の姿が、今、まさに目の前に横たわっていた。
『ママ……』
話しかけても、声は返ってこなかった。
『キミコだよ? 覚えてる?』
横たわっている女性に触ることが出来た。
ママだよね…… ママだ。
良かった…… 生きてた。
『ママっ!』
何かが間違っている。
ずっと…… ずっとどころか、何年も会っていないはずだ。
ここは女子寮で、母親が入ってくることなど……
けれど私は抱きしめていた。
おしつけた腰と、絡めた足が暖かくて気持ちよかった。
『ママ……』
ギュッと抱きしめると、その柔らかい体を感じた。
心地よさと性的な興奮を母に求めている??
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