「すみません」
 マミが頭を下げる。
「いいのよ。食事終わったところだし」
 新庄先生が立ち上がり、食事を片付け始めた。
「それより、どうしたの? また怪我でもした?」
「夢遊病ってわかりますか?」
「……ええ」
「まだそうかはわからないんですけど、寝ている時に動き回ってしまうようなんです」
 新庄先生は、食器を軽くあらって、トレイに戻した。
 そして四人の顔を一人一人ゆっくりと見た。
「木更津さん? が?」
 マミは小さくうなずく。
「もうすこし詳しく教えて」
 私達は知っている限りのことを話した。
 どうやら、まだそれだけで夢遊病とか、そうでない、とかの判断は出来ないということらしい。
 行動監視カメラを付けて、夜間のこうどうを記録してみるか、ということになった。
 本当に専門の医師に見てもらう前に、本当に寝たまま行動しているのか、ハッキリさせるべきだということだった。
 マミが手わたされたのは黄色くて、小さな髪留めだった。
「これを髪につけて寝て」
「こんな小さいものでなんとかなるんですか?」
「毎日充電だけしてくれれば、映像は残るわ」
「睡眠状態か、起きているのかも判断するから、ずっと付けていてもいいんだけど。充電の必要があるから、昼は付けない方が良いわね」
 私はじっと見ていて思ったことを言った。
「……あの、充電器は?」
「スマフォと同じよ? ここ? 学校のタブレットもあるんだし、何らか持ってるでしょ?」
 マミはうなずいてから、髪留めを眺め、言った。
「これ、防水ですか?」
「お風呂入っても大丈夫よ?」
「そんな意味じゃないんです。お風呂で撮影なんて、そんなこと……」
 新庄先生は呆れた顔をして言った。
「これ、睡眠状態にならないと撮影されないわよ?」
 マミは真っ赤な顔をしている。
 正直、その発言にびっくりしているのはこっちの方だった。
 新庄先生は、私を指さした。
「大体、そういうセリフは白井さんが言うもんじゃないの?」
「言えてるわ」
 チアキが同意する。
 ミハルはマミの手にある髪留めをじっと見ている。
「ん? ミハル。どうかした?」
「マミ。ちょっとそれ付けてみて」
「うん」
 鏡の前に移動して、手で髪を梳いてから、そっと前髪を抑えるように付けた。
「つけたよ?」
 マミが振り返ってそう言うと、ミハルは手を広げて皆を制した。
「なに? どうしたのミハル?」
「先生、これ、どこで手に入れたんですか?」
「ミハル?」
「見てっ。マミの様子が変」
「えっ?」
 チアキの言葉にマミの方を向くと、マミは、首と腕が脱力したように下がっていた。
 抑えていた前髪は抑えてあるが、髪もダラリと下がって顔の表情を隠していた。
 首が下がった状態から、突然顔だけ前を向いた。
 その姿が、一瞬、〈転送者〉のE体に思えた。
「マミっ!」
「キミコ、髪留めを外して」
「そんな馬鹿な…… 」
 新庄先生はいきなり机の引き出しを次々開いて、何かを探しはじめた。
「マミっ!」
 マミは全く呼びかけに反応しない。
 すこし近づくと、腕を素早く前に出してくる。
 まるで〈転送者〉のE体のような動きだ。
 マミは素手、だからその手がマトモにぶつかれば突き指をしてしまうだけで、ものを貫いて穴を開けたりは出来ないだろう。
 だからと言って、避けずに当たれば私だって痛いし、マミが可愛そうだ。
「マミ、髪留め外すの!」
 近づいては離れ、近づいては離れと動いて、なんとかマミの頭に近づくタイミングをつかもうとする。
 ミハルとチアキは私とマミを遠巻きに見ている。
「危ない!」