チアキの声で、来ないと思っていたマミの蹴り足に気がついた。
 のけぞるようにして、スレスレでかわすと、反動で飛び込んでみる。
「シャァッ!」
 空気が漏れているような声を出した。
 いや、声ではない。マミのものとは思えないような、音だった。
「!」
 足が戻るか戻らないかというタイミングで、拳の打ち込みが始まった。
 ギリギリ手の甲で払うことが出来たが、髪に手を伸ばすどころではない。
 倒す気でやらないと、こっちが殺られる。
 翼の力を使うわけにはいかない。
 本当に殺してしまう。
「マミ! やめ……」
 言いかけたところにハイキックが飛び込む。
 両腕で受けるように抑えるが、身体が飛ばされてしまう。
 こんなに体重差があるのか……
 ミハルが叫んだ。
「髪留めを取るのにこだわらないで! 壊せば機能は止まる!」
「!」
 そうか……
 取るつもりじゃなくて、打撃して破壊できれば。
「マミ、ごめん!」
 言って踏み込むと、マミの拳が顔にくる。
 それを頭を下げてかわすと、両手でマミのお腹を突いた。
「ぐぅっ……」
 腹部の痛みに頭が下がったところで、マミの髪留めを取ろうと、遠い方の手をのばす。
 マミが取られまいと髪留めを手で押さえた。
 これはフェイント。
「そこっ!」
 マミの手の上から思い切り頭を叩いた。
「パキンッ!」
 気持ちいい程の音が鳴った。
 マミが両手で頭を抱えて、倒れ掛けた。
 私は下に入るようにして、抱きとめる。
「マミ、大丈夫?」
 マミは目を閉じてしまった。
「マミ……」
 ミハルとチアキも駆け寄ってくる。
 マミの手を離してみると、髪留めは割れていた。
 手のひらが切れていて、血が滲んでいる。
「ごめん」
「……」
 マミは目を閉じたままで、意識がないようだった。
 どうしよう…… 強く叩きすぎたのだろうか。
「ごめんっ!」
「とにかく、ベッドに運ぼう」
 ミハル達ががやってきて、ベッドに寝かせる為に手伝ってくれる。
「謝るのはあなたじゃないわ」
 マミの身体を運びながら、新庄先生が言う。
「そうよ。先生の渡した髪留めのせいだから」
「チアキ……」
「先生が渡した髪留めのせい以外に考えられないでしょ?」
「……そうだね。確かに机の上になんでこれが出てるんだろう、と思っていた」
 マミをベッドに寝かせると、新庄先生が白衣のポケットから何かを取り出した。
「いつもの引き出しにも髪留めが残っていた。何者かが、こうなることを予測して、偽物を意図的に机に置いて行ったとしか思えない」
「そんな……」
「そんな今考えたようなこと信じられない。先生、あなたが一番怪しいんですよ」
 チアキがベッドの反対側にいる新庄先生を指差して言った。
「それは」
 『先生は私の味方』と言いかけたが、それを分かってくれるとも思えなかった。私達はそれぞれ変身する能力を持ち、通常の人間ではない、という話をしたところで、普通に考えれば、余計に怪しい。
 私が先生を信じ切るのは、助けてくれたからという事実があるからであって、それまではチアキと同様怪しいと思っていたのだ。
「……」
「私は先生を信じます」
 新庄先生は私を制するような仕草をした。
「そうね。疑われるのはムリもないわね。けど、この髪留めは私に預けてくれないかしら。髪留めの謎は必ず突き止める」
「証拠隠滅しようというんですか?」
「チアキ、そこまで言うこと……」