さっきと同じように、先生は私を制した。
「髪留めは預けます。そのまえに写真だけ取らせてください」
 先生は髪留めの割れたところの断面や、裏、表をスマフォで撮った。そして、チアキの手に渡した。
「これは警察に持っていきます」
 新庄先生はうなずいた。
「さ、授業がはじまるわよ」
「いいえ。救急車がくるまで私達はここにいます」
 その場にいる全員がうなずいた。
「先生を疑っている訳じゃないです」
「いいのよ」
 そう言いつつも、新庄先生は落ち込んでいるように見えた。
 先生は机に戻って、スマフォの写真にメッセージを付け、どこかに送ったようだった。
 しばらく沈黙が続くと、保健室にも救急車の音が聞こえてきた。
「来た」
 チアキは窓の外を見やりながら、救急隊員がくるのを探していた。
 先生のタブレットが鳴って、新庄先生が応答した。
「……はい。保健室で寝かしています。……はい。」
 救急隊員が学校の受付から話しているようだった。
 廊下にカラカラとストレッチャーが運ばれてくる音が聞こえた。
「急患はこちらですか」
「はい」
 先生が状況を的確に説明していく。
 マミをストレッチャーに移すと、救急隊員は受け入れ先の病院を探した。
「誰か付きそう方は」
「私が」
 新庄先生が手を上げた。
 チアキは気に入らないとばかりに『私がつきそう』と言ったが、私達が引き止めた。
 ゆっくりとマミは救急車に乗せられ、走り去っていった。
 私達三人は重苦しい雰囲気になり、言葉もでなかった。
 教室にもどると、授業はすすんでいた。
 当然のように授業には身が入らず、ただぼんやりと窓の外を眺め、マミのことを考えるだけだった。
 髪留めといい、カチューシャといい、ここまでくると直接マミを狙っているのは間違いなかった。
 もし、昨日の夢遊病の相談をすると分かっていたのだとすれば、ミハルかチアキ、あるいは寮でのマミの行動を監視できるような人物…… ということになる。
 チアキはまだ出会ったばかり…… そもそもカチューシャで操られていた可能性も高いが。ミハルもカチューシャで操られていた、と言われればそうだし、今現在もカチューシャを付けているわけだから、まだ【〈扉〉の支配者】の指令を受けている可能性はあった。
 けれど…… 二人を疑うためには証拠が少なすぎる。
 突然、目の前のタブレットがフラッシュした。
「白井くん…… は答えられそうにないね」
 髪の長い、男の教師は私の顔見て廊下を指差した。
 すると再びタブレットがフラッシュした。
『新庄先生が廊下でお呼びだ』
 とタブレットにメッセージが送信されていた。
 私は立ち上がって、教室を抜け出した。
「新庄先生…… マミは?」
「悪いところは無いわ。意識も戻った」
「退院してこないんですか?」
「一日様子を見るようよ。退院は明日の午後ね」
 教室の扉に目をやり、新庄先生が近づいてきた。
「(あの髪留めだけど)」
「えっ! 何か分かったんですか」
 教室側からざわざわと声が聞こえる。
 新庄先生は口に手を当て、保健室へ行こうという仕草をする。
 私はうなずき、先生の後をついていく。
 保健室に入ると、先生が言った。
「あんな大きい声を出すとは思わなかった」
「ごめんなさい」
「マミさんはなんどかこういう意識を乗っ取られることがあったみたいね」
「えっ?」
 新庄先生は手を上に伸ばして言った。
「あの大男から聞いたのよ」
「鬼塚刑事ですか」
「山咲とかいう刑事にカチューシャを調べさせたけど山咲がニセモノだったんじゃないか、とかね」
「山咲刑事は偽者だったんですか?」
 新庄先生はスマフォを眺めながら言った。
「らしいわ。昨日〈鳥の巣〉で運転をした人が山咲本人で間違いないらしい。|砂倉(さくら)署には顔を出してないって話よ」
「けど…… 顔がそっくり」
「そこなんだよね…… そこは鬼塚刑事も分かってないみたい」