「さあ、そろそろこんなところはおさらばだ」
 そう言って絞めていた首を放した。
 亜夢は喉を抑えながら農道にしゃがみ込む。
 小林は亜夢の正面に回った。
「安心しろ。逃げるのはお前をボコボコにしてからだ」
 小林の拳が振り下ろされる。
「(いなずま)」
 祈りのような小さな声。
 言ったか言わないかの間に、雷が小林の体に走る。
 焦げる程の電流はない。
 が、痺れて気を失うには充分だった。
 筋肉が痙攣するように振動して、亜夢の顔に拳が振り下ろされることはなかった。
「……ふぅ」
 亜夢は立ち上がると、声を上げた。
「奈々っ、もう大丈夫よ!」
 霧の先で影が動いた。
 しばらくすると奈々と警察官が二人を見つける。
「……おい、君、大丈夫か?」
 警官は倒れている小林に問いかけた。
「君、彼に何をしたんだ」
「……何も。いきなり雷があって」
「かみなり?」
 警官は小林が生きていることを確認し、無線で応援を呼んだ。
 奈々がその場を少し離れてから、亜夢に手招きした。
「おい、君たちまだ帰っちゃダメだ」
「ちょっと話をするだけです」
 亜夢が近づくと、奈々は耳元に手を当てて言った。
「(超能力を使ったの?)」
 亜夢は、小さくうなずいた。
 今度は亜夢が奈々の耳元に手を当てて言った。
「(空気を激しく動かして、電気を起こしたの)」
 奈々は指を立ててクルクルと回した。
 亜夢はそれをみてうなずき、笑う。
 奈々も笑った。
「とにかく、良かった」
 
 
 
 救急車と、警察官が後何人かきて、二人はことの顛末を話し始めた。
「学園へ行く途中、急にあの男後ろをつけてきて」
「二人で、気持ち悪いって話てると」
「急に走りはじめて、私達を追い越して」
「それは別に問題ないじゃないか」
 奈々が亜夢の方を見て、うなずく。
「そうじゃないんです。前に回ってこっちを向きながら『ほら……』とか言って」
「どこが痴漢なんだ?」
「だから、『ほら……』って言って」
 亜夢は、小林がしたような仕草をした。
 股のところのチャックをおろすように手を動かす。
「?」
 警官は真面目な顔で首をかしげる。
 亜夢は腰を突き出すようにして言った。
「下半身を露出して来たんです」
「おお、そうか」
 亜夢と奈々は顔を見合わせて、小さな声で話す。
「(そうか、じゃねぇだろ)」
「(わざと言わせてる感じしますね)」
「で、それだけかな?」
 何かメモを取っているのか、取っていないのかわからないような感じだった。ただ、会話は録音はしているようだった。
「そんなもんじゃすまなくて、奈々の手をとって、強引に下半身にもっていくもんだから、あいつの腕を引っ叩いてやったら、私の肩を掴んできて」
「おお…… なんか痴漢らしくなってきたね」
「……」
 警官の表情をみて、亜夢は額に手を当てた。
 そして、パトカーの方を指さして言った。
「女性の警官の方に変わってもらえませんか?」
 目の前のメモをとっていた警官が手招きすると、女性警官がやってきて、小型録音機を渡された。
「男性には話し辛いんだと」
「それで、どうなったんです」
「あいつが下半身を擦り付けてくるから、振り払って逃げたんです」
「えっと…… 被害は亜夢さんだけ?」
「奈々も手を掴まれました」