「……」
「良いかしら?」
「はい」
「ここで私は食事の片付けをして、食器を洗っていたわけだけど……」
 画像が何枚か進む。
 すると、また先生がパッドをタップする。
「ほら」
「……」
「ここではもう髪留めが机の上にある」
「ミハルの影になってハッキリは見えないじゃないですか」
「もう少し進めてみようか」
 私達の位置が少しずつ変わるが、なかなか机が見通せない。
 一瞬、ミハルの体がブレたときに机の様子が映った。
「ほら、あるわよね」
「……」
「誰とは言わない。白井さんの場合もあるかもしれないからね」
「わ、私も疑われているんですか?」
「チアキは私を疑ってるんでしょ? ここに居た人全員が疑われて良いはずよ」
 私は何も反論出来なかった。
 まさかあの瞬間にこんなことが起こっていたとは。
「マミに髪留めをつけてみろ、と言ったのはミハルって|娘(こ)だったわよね」
「……」
「思い出してみてよ。誰が髪留めをつけろと言ったのか。マミちゃんがコントロールされる前から結果を知っていたような人物は誰なのか。防犯ビデオで机の上に死角を作るように動くのは誰なのか」
「ミハルは違います」
「疑うに値すると思うけど」
 ミハルは違います、と言った自分にも、ミハルへの疑念はゼロではなかった。
 何しろ〈扉〉の支配者の代弁をしたこともあるし、あのカチューシャを未だに外していない。
 コントロールされていない、というなら外してみせるのが普通だと思うのだが。
 けれど…… もう一人疑わしい人物がいる。
 ミハルを犯人に仕立てることが出来る人が。
「……」
「白井さんはどう思うの?」
 先生も充分疑わしい、と本人には言えなかった。
 こういうのは十分裏付けを取ってからにしなければ。
「……ミハルって|娘(こ)には充分注意すべきね」
 新庄先生にはうなずいてみせた。
 どちらが〈扉〉の支配者の手先でもいいように準備だけはしておく必要があった。
 立ち上がってお辞儀をした。
「マミの退院は明日、なんですね」
「明日は一緒に行きましょう」
 先生もそう言って立ち上がった。
「場所は知っています。だから大丈夫です」
 新庄先生は私の顔をみて、何か考えたように時間をおいてから、言った。
「そう? じゃあお願いするわ」
 先生は小さく手を振った。
 私は保健室をでると、チアキが付けていたカチューシャを手にとって、再びしまった。
 このカチューシャは、ミハルがチアキに取られないよう肌身離さず持っておくよういわれたものだ。いつかマミが付けたカチューシャは、砂倉署の|山咲良樹(やまさきよしき)を騙る男に奪われてしまった。
 割れた髪留めと、このカチューシャに同じ仕組みが入っているのなら、チアキも〈扉〉の支配者にコントロールされていたことになる。チアキがカチューシャを付けたキッカケを覚えていれば、もしかしたら何かつかめるかも。
「あら、白井さん」
 金髪、碧眼の教師に呼び止められた。
 オレーシャ・イリイナーー情報処理学科の教師だ。
「まだ授業中ですけど、どうしたんですか?」
「先生こそ、授業はないんですか?」
「保健室に行こうと思ってます」
「具合悪いんですか?」
 オレーシャは間を置いてから、
「具合…… わるくありません」
「それじゃあ、何故?」
「クスリをもらいに行きます」
 オレーシャはお腹を抑えた。
「それより、木更津さんが入院という話を聞きました。ダイジョブなのですか?」
「明日退院するそうです。私が迎えに行きます」
「あなたと、木更津さんはぜひ合宿に来て欲しいです。以前、〈鳥の巣〉で書いたスクリプトをみました」
「そうなんですか」
 言った後、どうやって見たのか疑問に思いはじめた。
「優秀です。合宿に必要な人材だと思います」