受付の雰囲気とはまるで違う。
「マミ!」
 そうだ、マミが危ない。
 フロアの案内図をみて、マミの病室を確認する。
 曲がり角で立ち止まり、そっと顔をだす。
 何もない。誰もいない。顔を引っ込め、反対側の通路も確認する。
「……ただ誰もいないだけ?」
 壁沿いにゆっくりと歩く。フロアナンバーを間違えたのか…… 間違えて、工事中のところに入り込んでしまったとか、未使用のフロアに入ってしまったのだろうか。
 いや、さっきフロアの案内図をみたはずだ。
 しばらくあるいて、壁の部屋の番号をみる。
 やっぱりこのフロアで間違いない。
「キミコ…… キミコ……」
 姿は見えないが、マミの声がした。
「マミ? マミなの?」
「キミコ…… キミコ……」
 嫌な予感がする。
「キミコ…… キミコ……」
「キミコ…… キミコ……」
「キミコ……」
「きみこ」
 本来のマミの声をかき消すように、様々な声で私を呼ぶ。
 段々と声が重なってきて、何を言っているのかもわからなくなってくる。
「きみきみききみみこきみこきみみみこ」
 奥の病室の扉が開いた。病室の光が廊下に漏れ出る。
 何人かの人影が映る。
『キミコ……」
 異常に猫背の看護師が、顎を突き出すように前を見て出て来た。
「ひっ……」
 私は小さく声を上げた。
 看護師の帽子はなく、そこには赤黒のカチューシャが付けられていた。
 ゆっくり前に進み出ると、後ろからも体格の違いこそあれ、同じような姿勢で看護師が出て来る。
 白い制服が死に装束のようだ。
「キミコ……」
「マミっ!」
 また一つ別の病室の扉が開いた。
 同じように看護師が歩み出て来る。
「マミっ? さっきの、マミでしょ?」
 叫ぶが答えは返ってこない。
 マミを助けたい気持ちと、このままでは自分の身が危ないという思いが混じって、進むことも戻ることも出来なかった。
 どうする、このままじゃ囲まれる。
「キミコ…… キミコ…… キミコ……」
 声に振り返ると、廊下の後ろの病室からも看護師が出てきている。
 このフロアだけで何人看護師が配置されているんだろう。
 さすがに病室数より看護師が多いわけはないだろう。
 それならヤれない数じゃない。
 私は看護師の付けている赤黒のカチューシャのことを思い出した。
 白黒の模様の入ったチップが埋め込まれている場所、そこを強く叩けば、チップが割れるはずだ。
「きぃみぃこぉ…… きぃみぃこぉ……」
 野太い声が背後からした。
「しまっ……」
 背中に暖かくて柔らかい体が当たったかと思うと、あっという間に首を締められた。
 何も抵抗出来ないまま、足が床を離れる。
 踏ん張れない上に太い腕で締め上げられ、気を失いそうになる。
「!」
 両腕をつかって首を締めに来ている、ということは頭はがら空き……
 私は、逆上がりの要領で体をくの字に折って、足を振り上げた。
 そして気持ちを集中して足先だけを変身させる……
「パキッ!」
 甲高い音がして、カチューシャが割れると、締めていた腕が緩められる。
 足先の変身を素早く解除する。
 コントロールが解けたせいで、私と後ろの柔らかい肉体は床に倒れ込む。
「わっ……」
 しかし、ふくよかな体が下になり、クッションになって、どこも床にぶつけずにすんだ。
「ごめんなさい」
 倒れている看護師にそう言って立ち上がる。
 辺りは猫背の看護師達で囲まれていた。
「マミっ!」
 マミを助けなければならない、ということと、マミがいま見ているなら変身を控えなければならない、という二つの意味でマミを呼び、マミを確認した。