いまこの瞬間なら変身しても問題ないが……
「狭すぎるっ!」
 近寄ってきた一人の頭を素早く叩いたが、割れもしなかった。
 幸いカチューシャをした看護師軍団は、動きが遅かった。
 二度目に叩いた時は、クリーンヒットし、『パキッ』と乾いた音が響いた。
「二人っ!」
 後何人いるか数えているわけではないが、対処が終わった数を叫んで自分を鼓舞していた。
「キミコ」
 振り向くと、その看護師はさっと後ろに下がった。
「?」
 どうしてなのか、一瞬考えていると、後ろに気配を感じた。
 振り返ると、背後にいた看護師がまさに襲ってくるところだった。
 突いてくる両手を抑えると、全力で足を振り上げて、カチューシャのポイントを叩く。
「パキッ!」
 面白いほど良く当たる。
 まるで自分が強くなったような錯覚に陥る。
 カチューシャが割れると、看護師は、糸が切れた操り人形のように床に崩れ落ちる。
「三人」
「キミコっ!」
 周りの看護師は猫背ではなくなってきている。
 それにさっきより動作が機敏だ。
 『キミコ』と叫ぶ役も、どこから言ったのか分からないように、隠れた上に壁とかに音を響かせているようだ。
「何…… どうなっているの?」
 もしかすると……
 人数が減ってくると、コントロール能力が上がるのかもしれない。
 同時に二人割れば、スピードアップを体感出来るかもしれない。
 看護師の攻撃を避けながら、両手で二人の頭を叩けるタイミングを狙った。
「キミっ」
「こっ」
 看護師は連携して攻撃をしかけてくる。
 右をかわすと、今度は左が攻めてくる。
 右が上体を狙っていると、左は足を狙ってくる。
 必死になって避けながら、少しずつ観葉植物の近くへ誘導する。
 パッと鉢の後ろに隠れると、二人の看護師は一度に左右から顔を出してきた。
「そこっ!」
 同時に放った拳で二人のカチューシャを同時に割った。
「いつつっ!」
 はやり最初に予想した通りだった。
「キミコ…… キミコ……」
「マミっ?」
 まるで声真似をしているようだった。
 看護師の動きが早くなった。
 何人かが、床運動の選手のように倒立回転をして廊下を行き来しはじめた。
「やっぱり……」
 コントロールする電波が干渉するのか、人数が多すぎると単に処理が追いつかないのか、カチューシャの数が減ってくると、看護師個々のスピードが上がってくる。
「ってい言うか、本人の能力以上のことをさせてるんじゃない?」
 私も倒立前転なんて無理だ。
 変身する翼のちからを使えば何か出来るかもしれないが……
「キミコ…… キミコ…… 助けて……」
 もう、その声が看護師の声真似なのか、マミが言っているのかわからなくなっていた。
 私は声がした方へ急いだ。
「マミっ! いるの? 大丈夫なの?」
 視野の隅に何かが映った。
 慌てて上体を反らせる。
 空気を切り裂く音がした。
「!」
 一人の看護師がモップを振り回し始めたのだ。
 鼻先をモップが通り過ぎていく。
 カッ、カッ、カッ、と私の脳天を目掛けて振り下ろし、床を突く音がする。
 この棒を操る相手にどう対処してよいのか分からない。
 こっちの手が頭に届く前に、棒が振り抜かれてしまう。
 これ以上後ろに下がれば、後ろにいる看護師も捌かなければならない……
「まずいっ!」
 マミが見ていないことを祈りながら、足を蹴り上げる。
 もちろん、変身した姿の。
 ボキッ、と音をたててモップが割れる。
 看護師はまだ長いモップを持っていると思っているのか、その短い棒でついてこようとした。
 蹴り上げた足でそのモップを捕まえると、逆足で脳天のカチューシャを叩く。