パキッとカチューシャが左右に落ちると同時に、看護師も目を閉じて、膝から崩れ落ちる。
 足の変身を解いて、慌てて抱きとめ、ゆっくりと床に寝かす。
「六つ!? んっ……」
 倒れそうだった看護師を寝かす間に後ろを取られた。
 もう人数が少ないせいか、素早いし狡猾になっている。
 最初に首を閉められた看護師より体格が小さいためか、身体が持ち上がることはなかったが、細い腕からは信じられないようなパワーが出て、首をしめている腕を引き剥がせない。
 私が身体を振ると、釣られてよろけるが、首だけはしっかりホールドされている。
「!」
 何度か身体をひねっていると、通路の角に誰かいるのが見えた。
 背中に力を込める。
 翼が飛び出し、看護師のみぞおちに入る。
「ぐへぇ……」
 首を閉めていた腕が解けると、私はそこへ走った。
「待ちなさい!」
 非常階段への扉を開け、降りていく男の影が見えた。
「あいつ……」
 砂倉署の山咲、いや山咲さんの姿そっくりの誰かだ。間違いない。
 非常階段の扉に駆け寄る。
「行かせない」
 看護師に前を塞がれた。
「あいつは誰なの?」
「こっちには行かせない」
 手を広げられ、これ以上先に行くのは無理だった。
 山咲の姿をした奴が仕組んだことなのか?
 私は鬼塚刑事を思った。
 後ろから、さっき首を締めてきた看護師が近づいてくる。
 この状態で二人同時にヤれるかわからないが、一人倒してから最後の一人を倒す方が難しいだろう。
 意を決して非常階段へ突っ込んだ。
「行かせない」
 右足を回しながら正面の看護師の首を狙う。
 これはフェイント!
 看護師はしゃがんでかわそうとした。狙いどおり!
「そこっ!」
 かかとを落として、カチューシャを割る。
 その足を鳥の足にして、看護師の頭を掴み翼を使って後方へ回転する。
 いたっ!
 パキッと割れて、後ろから近づいてきた看護師のカチューシャも割れて落ちた。
 非常階段への扉に持たれながらゆっくり倒れていくのをみて、後ろにいた看護師の背中をささえて横たえた。
「これで八つ…… 終わり、よね」
 自分に言い聞かせるように言った。
 これだけ動きまわったのだ、フロアの看護師は全員引き出せたはず。
 もし部屋に隠れていたら……
 慎重に廊下を歩く。
 さっき倒した看護師が床に寝ている。
 マミの病室の部屋番号が見えた。
 その時……
 後ろでパチっと音がして、廊下の灯りがついた。
 とっさに左右を見渡して壁に背中をあずける。
 まだ誰かいるのだ。
 ……違う、こんなことをしている場合じゃない。
「マミっ!」
 私は目の前の病室のドアを開けた。
 病室内は明るかった。
 手前の二つのベッド…… 空いているようでだれもいない。
 奥のベッドは二つともグルリとカーテンが囲っていているにせよ誰だかわからない。
 確か廊下の書いてあった番号は左…… だったはず。
 私は左のベッドのカーテンを開けた。
「マ…… ミ…… 」
 上掛けを頭まで被って、寝ている。
 私は少し疑った。
 もしかしたら、これはマミじゃない…… かもしれない。
 最後の看護師が、ここで逆転を狙っているとしたら。
 一点を見つめないようにベッド全体に気を配る。
 ベッドの横にある椅子をそっと足でどかし、マミの頭の方へ近づく。
「マミ? 起きて。迎えにきたよ?」
 何も反応がない。
 いや、うわ掛けが少し動いた。
「……キミコ?」
 くぐもった声だが、マミの声だった。