「マミ、良かった。さ、早く帰ろう」
 うわ掛けの端を持って私はマミの顔を見ようとした。
「んっ!」
 同時に、マミは急に上体を起こしてきた。
「えっ…… なに?」
 抱きついてきたマミに、抵抗することは出来なかった。
「!」
 目の端にマミの頭にカチューシャが見えた。
 素早くマミの頭に掌底を入れる。
 パキッと乾いた音がすると同時に、自分の頭に何か違和感があった。
「……まさかっ」
 マミがゆっくりとベッドに倒れていくと、私は後ろを振り返った。
「キミコ、ほら、命令に従いなさい」
 後ろの病室から、最後の看護師が現れた。
「注意…… してたのに……」
「私やお友達のカチューシャに気を取られて、頭の防御がおろそかだったわね」
「〈扉〉の支配者の為に働きなさい」
 何か、ものすごい量の言語メッセージが頭に入り込んでくる。
 耳で聞いた声は、意味が取れないくらいだった。
 目の前の風景に、様々な言語、様々な文字、様々な音が重なっていく。
 私は後ずさりした。
「接続が半端だわ……」
 カチューシャを付けた看護師が、走り始め、一気に間合いを詰めてくる。
「キミコっ!」
「ここのつっ!」
 私はすれ違いざまに、看護師のカチューシャを蹴り割った。
 マミに見られた…… かもしれない。
 一瞬の跳躍。
 いや、その前に。
 マミが目を覚まし、私のカチューシャを取ってくれたから助かった。
 カチューシャを防衛する機能が働くほど、きっちり装着していなかったのが幸いしたようだ。
 そして、片足を変身させ、跳躍。
 看護師の頭をすれ違いざまに、蹴って、カチューシャを割ったのだ。
 それとも、私背中で足先の爪が見られてなければ良いのだが。
「キミコっ、大丈夫っ!」
「ちょっと足が痛いけど、大丈夫だよ」
 私は変身が解けていることを確認し、ゆっくりと立ち上がった。
 振り向くと、マミは上体を起こしてこっちを見ている。
「何か、見た?」
「?」
「それより、ほら、これ!」
 マミは私の頭から取り去った…… そのちょっと前にマミが私につけかけたカチューシャを持っていた。
「調べてもらおう」
「そうだよ。あの刑事さんに渡して」
 マミは立ち上がろうとして、床に看護師が倒れているのに気付いた。
「この人、ベッドに載せておこう」
 私とマミはうつ伏せに倒れている看護師をマミが寝ていたベッドに移した。
「早くここを出よう」
 廊下の灯りを付けた誰かがいることは間違いない。
 それがカチューシャを付けた看護師だったら…… 逃げなければならない。
 普通の看護師だったら? これだけ倒れた看護師をみて、私達のせいだと思うに違いない。
 どちらにせよ、早くここを離れた方が良さそうだった。
「まだ着替えてないよ」
「どこかのトイレで着替えよう。ここは危険なの」
「そ…… そうだね」
 マミの手を引いて病室のドアに行く。
 顔だけを外にだして、様子をみる。
 床に寝ているはずの看護師がいない。
「えっ、どういうこと?」
「何があったの」
 背中越しにマミも廊下の様子をみる。
「看護師さんがいない……」
「仕事してるんじゃないの?」
「違うの、さっきみたいに看護師全員がカチューシャを付けられていて……」
「全員が?」
 ともかく、このままではまずい。早く逃げ出さないと。
 正面に向き合い、マミの肩に手を置いた。
「行こう。下のフロアは普通だったから、せめてそこまで」
 マミはうなずく。
 私が走りだすと、マミもついてくる。