「知らない方がいいよ」
「こいつはまだ信用できない」
「アキナ!」
 亜夢は両方の手を小さく振った。
「そういう意味じゃないから、そんなこと知ってもメリットないし」
「……違う」
 奈々がうつむきながら、小さい声で言う。
「たぶん、アキナの言うことが正しいんだよ。信用出来ないんだ」
「奈々、違うよ」
「そうじゃないの。さっきの先生の話と同じ。私も無自覚なの。なんの超能力があるかわからない。だから誰も私を信用出来ないんだよ。私って超能力らしいことは何も出来ないのに、都会では眠れなくなって、測定器には値がでちゃう……」
 支離滅裂なことを話始めている、といった雰囲気だった。
 アキナも本村も亜夢の方を見つめる。
「ある日突然、私は眠れなくなった。医者に通う内、超能力計測器を持ち出して私をテストし始めたわ。けどそれが何のことか分からなかった。ネットで調べると、都心には超能力者を混乱させる為電波が出ているらしい。超能力を持った人間が要所に入り込まないようにする為みたいね。私も最初は何も記録されてなかったのに、何度か計測しているうちに段々値が大きくなってきたの……」
 奈々は机に向かって話続ける。
「ここに来ることが決まる前、医者から私の超能力の計測値を見せられた親は泣いた。一緒に暮らせなくなることを知っていたのね。それから何日もしないうち、私はここに入れられたのよ!」
 亜夢は奈々の席に近づいて、そっと抱きしめる。
「私達は孤独じゃないわ」
 奈々の髪の上に涙が落ちた。
「だから大丈夫」
 奈々は亜夢にしがみつくようにして、泣き始めた。

 その次の時間は、亜夢も奈々も目を真っ赤にしながら授業を受けた。
 先生も気づいたようだが、何もきかなかった。
 昼休みになって、亜夢と奈々とアキナ、本村の四人で学生食堂で食事をした。
 各々がトレイを持って窓際の席へ座った。
 奈々は外が見える側、亜夢は奈々の正面に座っている。
「亜夢、あなたはどうやってここに来たの?」
「私も奈々と同じ。不眠症になって…… けど、その時には簡単がことが出来るようになってた」
 アキナも本村を興味をもったように食事の手を止めた。
「何、簡単なことって?」
「他人がどうやって超能力に気付いたか興味あるな」
 急に亜夢は笑い始めた。
「どうしたの?」
 亜夢の笑いは止まらなくなってきた。
「……ごめんごめん。ちょっと私のはここじゃ話せない」
「亜夢、ずるいよ」
「食べ終わったら話す。ふふっ…… だからアキナ話して」
「私も不眠症になって、超能力の測定をしてって。流れは同じさ。列車にも、飛行機にも乗れない。こんな田舎街に車で来たんだよ。二十四時間、車の中だよ」
「ああ、私も車だった車だった。なんでだろうね?」
「それは知ってる。発火する可能性があるバッテリーとかって航空便でやらないでしょ? そんな理由らしいよ。超能力で列車や飛行機が落ちたら困るってことみたい」
 亜夢は威張ったようにそう言った。
「で、私がどんなことで超能力に気付いたかっていうと」
「アキナのことだから、喧嘩とか?」
「そんなイメージしかないのか」
「いや…… そういうわけじゃ」
「風呂上がりに、髪をふきながら、とか、おやつ食べならがら、とかのタイミングでマンガのページをめくれたんだよね」
「親が私のやってることにビックリして、逆にこっちがびっくりした」
 亜夢も本村も笑ってうなずいた。
「あるある」
「それは、どういうものを動かしてページをめくってたんですか?」
「多分、風。どうやってページとページの隙間に風を入れれたのかは分からないけど」
 亜夢は食事が終わったようで『ごちそうさま』と小さい声で言った。
「奈々、超能力は小さくて軽いものを動かす方が簡単なのよ」
 亜夢はトレイを片付けに行った。
「物理的な力と一緒、ってことですか?」
 アキナと本村がうなずく。
「そうか、ページを押さえていたのは風じゃないんだよな。あれはなんだろう? えっとね、ページとページのザラザラを合わせて絡ませてやる感じ」
 アキナはそう言う。
 本村は少し考えてから答える。
「それって圧着しちゃってるんじゃない」
「あっちゃく? ってなに? 確かに、手でめくろうとした時にページが離れなくて焦ったことがある」