スイッチが切れたようにドアに掛かっていた力が抜ける。
 同時に、自分の腕がガラスの先に見えた。
 ということは…… 転送が終わった?
「まさか、〈扉〉の支配者、に連れ去られた?」
 車両が急減速して音を立てる。
 車両が完全に停止すると、声がした。
『何かございましたか?』
 車両の各扉の上についているディスプレイに駅員の顔が映る。
「いえ…… 何も」
 自分の表情が、とても『何も』なかったような顔ではないことは知っている。
 けれど、口ではそういわないといけない。そう思った。
『関係者用の扉が開いたので緊急で停止させて頂きました』
「えっ…… あっ、な、なんか閉まってなかったみたいですよ」
 私は泣きながらそう言って顔を伏せた。
『ここに〈転送者〉を向かわせている。もう逃げられない』
「えっ?」
 もう一度、ドアの上の画面を見ると、そこに駅員が映っていない。
 さっきまで車両にいた、カチューシャの女になっている。
「あなた、〈扉〉の支配者なの?」
『木更津は頂いた』
「マミっ、やっぱりそっちに連れてかれ……」
『返して欲しければ、セントラルデータセンターに来い』
「どういうこと?」
 映像が消えた。
 駅員の画像も出てこない。
 ふと、後部車両を見ると、理由がわかった。
 止まっていた車両が、ガクン、と揺れた。
「〈転送者〉…… お前が出てこなければっ!」
 さっき入ってきた割れた窓から、高架の外へ飛び出した。
 飛び出した、というより、下の道路へ落ちていく。
 私は翼を広げ、拳に力を込めた。
「許さない。〈転送者〉も〈扉〉の支配者とかいう奴も」
 高く高く上昇し、螺旋を描きなら〈転送者〉に向かって降下する。
 羽ばたき、降下のスピードを上げたら、向きを変え、足先爪に力を込めると、体をスピンさせる。
「貫けっ!」
 二体いた〈転送者〉の後ろにいた一体の体を切り裂いた。
 E体の体から、コアがぽろりと線路に落ち、二つに割れた。
 実体が気化するように広がりながら消えていく。
「来なさい」
 E体が言葉を理解したかのように、こっちに向かって走ってくる。大きく、アンバランスな腕をブンブンと音を立てながら。
「んっ!」
 ギリギリまでひきつけ、接触まであと一歩のところで、こちらから踏み込む。
 一直線に突き出した拳が、E体の中心をえぐる。
「ヴヴヴィウヴァ……」
 コアが割れる音がした。
 まるで空気が抜けるような、間抜けな音がして、E体は広がって、消えていった。
 〈転送者〉には勝った…… けど……
「マミ…… マミ……」
 線路の上に膝をついて、座り込んでしまった。
 背中の翼で、身体を包み隠した。
 その闇の中で、私は顔を手で覆い、泣いた。
 ごめん、マミ。私のせいだ。
 ごめん。マミ。
 本当にごめん。
 マミ…… 助けるから。
 マミ、待っていて。
 お願い、マミ。無事でいて……
 マミ…… マミ……



 終わり