「ヘッドホンじゃなくて、干渉電波キャンセラーだね。してみてよ」
亜夢は意味も分からず、それを頭にかけた。
「スイッチ入れるね」
耳を覆われている亜夢には、中谷の声が小さく聞こえた。
亜夢の中で、世界が静寂を取り戻した。
「し、静かになった……」
「そう? 良かった。これなら眠れるね?」
確かにあんなに響いていた超能力干渉電波…… けたたましいほどのノイズが、何も聞こえなくなった。しかし……
「……」
「どうしたの?」
「なんでもありません。ありがとうございます」
用意してあった車に着くと、加山が何か合図した。運転する人が加わり、加山と亜夢と中谷は亜夢を真ん中にして後部座席に座った。
「ゴーグルをつけてください」
干渉電波キャンセラーの上からゴーグルをつけると、また同じような真昼のビーチが目の前に現れた。
誰もいない、こころが乱されない映像。
「まだ時間がかかる。君は寝ててもいいぞ」
「はい」
「寝るなら肩を貸すから寄りかかってもいいよ」
「中谷っ!」
目と耳が覆われている亜夢の口元が少し微笑んだ。
「準備できたぞ。出発だ」
亜夢達を乗せた車が車回しをゆっくり入って、あるビルの正面口の前にとまる。
中谷が出ると、ビルの正面口から制服の警官が出てきた。
「ただいま戻りました」
車から降りようとしてた亜夢は、中谷の声と態度にびっくりした。
あんなにいい加減だったのに、やっぱり警察官なのだと思った。
「加山…… 今日はどうする」
制服の警官が呼びかけると、車の反対側から下りた加山がスマフォで時間を確認して言った。
「今のうちに説明だけしましょう。捜索は明日朝から」
「乱橋さん、キャンセラーもはずして」
中谷が亜夢にそう言った。
「乱橋くん。この方が今回の捜索の責任者になる梶谷署長」
「……」
梶谷署長と呼ばれた制服の男は、軽く会釈をしただけだった。
亜夢は頭を下げ、挨拶した。
「よろしくお願いします」
「どれくらいのレベルなんだ」
梶谷署長は加山に向かって言った。
加山は中谷にパソコンを開かせた。
「……」
梶谷署長は亜夢の方を睨みつけた。
「!」
梶谷には、オーラというか、威圧感があった。
ただ睨まれただけなのに、亜夢は体を突き飛ばされたように感じた。
亜夢の頭の中には、飛行場ほどではないにせよ、かなりの干渉波が来ていて、何も集中出来なかったが、一瞬、梶谷署長の声が聞こえた。
『超能力者は敵だ』
目の前の梶谷署長から発せられたかどうか、確かめようとするが、再び干渉電波で頭の中がめちゃくちゃになった。
「……」
「乱橋さん大丈夫?」
「中谷さん、平気ですから」
亜夢は両手で押しとどめるような仕草をした。
全員で応接室のような部屋に入ると、まず梶谷が奥の座席に一人座り足を組んだ。
加山と中谷が亜夢の正面に立った。
「乱橋くん、まずは座って」
亜夢が座ると、加山と中谷も座った。
中谷がタブレットをテーブルに置くと、それを操作した。
「乱橋くん、これ見えるかな?」
少し前に乗り出して、タブレットに映し出された映像を見た。
男…… いや画像が悪すぎて性別は特定出来ないが、中心に映っている人物がフラフラと歩いている。
何かの警官がフラフラ歩いている人物に近寄っていくと、バタバタと倒れてしまう。
「なんで倒れたんですか?」
「すぐ分かる」
映っている人物の周りで何かが弾かれたように光った。
「弾丸を弾いたようだな」
「弾丸って…… ピストルの玉のことですか?」
加山がうなずく。
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