映像を見ると、こんどは距離を保って警官が取り囲む。
「あっ!」
 雷のように光が走り、警官が倒れていく。
 光の枝が、その人物を中心にして、何本も放たれる。
「……」
 画像がホワイトアウトして動画が終わった。
「カメラが壊れてこれ以降は映ってない」
「その男を探せ」
 そう言いながら、梶谷署長は机の端を見つめている。
「男…… ですか?」
 亜夢の問いに、加山も中谷も答えなかった。
「……」
「いいからさっさと探し出すんだ!」
 梶谷署長は立ち上がると、怒ったような足取りで部屋を出ていった。
「何かマズいこと言ったんでしょうか?」
「きにするな」
「大丈夫だよ、確かにあの映像では男かどうかは分からないね」
「超能力者なんでしょうか? あの電撃が超能力を元にしたものだとしたら相当レベルが高いです」
「何を言っているんだ。君も電撃を使ったと聞く」
「……」
 加山は手を広げて言った。
「正直に言っていい。ここで何を言ってもあの時の罪には問うつもりはない」
「ちょっと質が違います。私は霧の水を凍らせ、それ同士をぶつけて静電気を発生させています。いわば雲のなかで行われていることをやったに過ぎません。いまの映像からすると、あの人物は直接電子を放っていた。もっと直接的に電子を取り出すような力があるということになります」
「えっ?」
 加山は今までと違う、マヌケな表情になった。
「直接的に電子を取り出す方が難しいの? なんか凍らせてぶつけて静電気を発生させるのも十分難しいと思うが……」
「確かに、私がイメージ出来ない、というだけでこの人にとっては簡単なことかも知れませんが。あと、その前の、ピストルの玉を弾くなんてもっと尋常じゃないです。どれだけの集中をすればあんなことが出来るのか、想像つきません」
 首をひねっている加山に代わり、中谷が言った。
「いままであった超能力者でこういう力を持っている人とあったことは?」
「ないです」
「ボクが超能力者だとして、イメージするとしたら、この雷の受け側に陽電子を集めるように……」
「出来ないです。出来る人にあったこともないし」
 中谷は自らの口を手で覆った。
 代わって加山がしゃべり始めた。
「出来ないって、それにしてもすぐ否定するね。それじゃ、この人物は超能力者ではない、ってことかな?」
 亜夢は何か返事を躊躇っているようだった。
「あんな電撃は出来ない、って決めつけるのは早かったのに、超能力者かどうかについてはやけに慎重なんだね」
「……」
「まあ、とにかく探しているのはこの人物で間違いない。今日はもう遅い。明日から始めよう」
 加山がまとめると、中谷も片付け始めた。
「加山さん、あの、どこに泊まるんですか?」
「ホテルがとってある…… と言いたいところだが。急だったもんでな。君は|警察署(ここ)で泊まってもらう」
「えっ……」
「大丈夫、加山さんは自分の家に帰るから。女子の仮眠室があるからそこで寝てね。あと、これも置いていくから」
 中谷はヘッドホン型の〈キャンセラー〉を差し出した。
 亜夢は会釈をして受け取った。
「俺が家に帰るから安心とはどういう意味だ? 言っとくけど、こいつも家に帰るから大丈夫だぞ」
 加山は中谷の頭に拳を立ててそう言った。
 応接室の扉がノックされた。
「どうぞ」
 加山が言うと、制服の女性警官が入ってきた。
 髪は短かったが、艶があって綺麗だった。
「こんばんわ…… あ、こちらが?」
「そう、こちらが乱橋くん、で、こちらが清川巡査。今日は仮眠室を使ってここで寝てもらうので、署内のことは清川くんに何でも聞いてくれ。悪いが、私と中谷はここで失礼する」
 加山は立ち上がると、中谷を引っ張りあげるようにして立ち上がらせた。
「じゃ、頼んだよ。それじゃ、明日」
 二人が出ていった。
「えっ……」
 亜夢はあっけにとられていた。
「あ、若くて頼りなく見えるかもしれないけど、何でも聞いてね。お風呂は使えないけど、シャワーなら浴びれるし」
 椅子に座っている亜夢は、見上げるように清川巡査の顔を見た。