「待ってて、マミ。必ず助けるから」
 鬼塚刑事の背中にしがみつきながら、私は何度もそう言った。
 何が見えて、何を判断しているのか分からなかったが、鬼塚は跳ねるように素早く林を駆け抜けた。
 セントラルデータセンターが見えてくると、舗装された道に近づき、急に二本足で立ち上がった。
「ほら、白井」
 挟んでいた足をはなし、肩を掴んでいた手を離した。
「もう着いたの?」
「後は歩けるだろう」
 私はその塔…… セントラルデータセンターを睨みつけた。
 〈扉〉の支配者が、マミを連れて行った。
 罠かもしれないが、空港の時のように約束を守ってくれるかもしれない。
 〈扉〉の支配者の意図がなんなのか、私にはわからない。
 けれどマミを救い出すためには、〈扉〉の支配者に従うしかなかった。
「はい」
 地下へ入るための入り口前に、警備が立っている。
 鬼塚刑事が、手帳を見せ、あらかじめ連絡済みであることを念入りに確認する。
「その女の子が……」
 私はその警備の男をにらみつけた。
「!」
 急に敬礼をして返した。
 鬼塚が、警備に見えないようこちらにだけ微笑んだ。
『すごい殺気だ。それに、冷静だ』
 バーを開けると、鬼塚刑事と一緒に地下へ続く通路へ入った。
 新庄先生も一緒だった時に比べ、道ががたがたになっていた。
 おそらくこの前のドラゴンーー私が勝手にドラゴンだったと思っているだけだがーーを軍が処理したときの跡なのだろう。
 道だけでなく、壁も、天井も、簡易な補修がしてあるか、補修の途中のような状況だ。
「さっき警備の男をにらんだな」
「だって『女の子』の言い方が……」
「別に責めるわけじゃない。伝わったと思うが、すごい殺気だったし、かつ冷静だった。今日はこの後もそれが必要だ。強い闘志と冷静さだ」
 歩きながら私はうなずいた。
「闘志が萎えればやられるし、冷静さを欠くと友達を取り返すことができない。二つがバランスしていないとまずい」
 鬼塚がこの上に立つ、セントラルデータセンターを指さして言う。
「この上には、まだ無数の扉が存在する。つまり、〈転送者〉はいくらでも出てくる。そこでは倒しきる、勝ち切るなんてことはありえない」
「はい」
「友達を取り返す。これが一番重要なんだ。取り返して、自分自身も帰ってくる」
 何度もきいた、と私は思った。
「くどいが、忘れてはいけない」
 こっちの心理が読めるのか、と思ってドキッとする。
 私と鬼塚刑事、そして、たぶん新庄先生。
 この三人は、同類なのだ。
 人ではない遺伝子を持ったキメラ。変身する怪物。
 私たちは互いにテレパスのように、音波ではない信号で意志を伝えることができる。
 私が鬼塚刑事に出会った最初のころ、『おれを呼べ』と言っていた意味がそれだった。
 けれど、伝えようとしなければ、心は読まれないはずだ。
 私は試しにあることを考えた。
「白井、時間がない。すこし走るぞ」
 車が事故を起こした関係で、つくのが遅れた。
 鬼塚はそのせいで、少し走ろうと言っているのだろう。
 私はさらに試しつづけた。
「だから、早くいくぞ」
 よかった。
 私の考えを読まれていれば、こんな受け答えにならないはずだ。
 叱られるか、ぶん殴らている。
「……安心しました」
「?」
「いえ、なんでもないです」