「そうだ、ちょっと急だったんで、私、下着を持ってきてないんです。買えるところないですか?」
「そうか。だから……」
 清川はなにか気づいたようにそう言った。
「ああ、ちょっと買い物に行こうか。大丈夫よ、気に入ったのはないかもしれないけど、売っているところはあるから」
「良かった」
 亜夢は胸のまえで手を合わせるようにして、そう言った。
 警察署を出ると、二人は大通りを歩いてから、地下に入った。
 地下街の店は殆どシャッターが閉まっていて、数件ある飲み屋の客と、フラフラ歩いていく酔っぱらいのおっさん以外、すれ違うこともなかった。
「都心には来たことあるの?」
「いいえ。小学生のころは関東に住んではいたんですが、都心には滅多にこなかったんです」
「じゃあ、そのころに超能力があるって分かったの?」
「あ、あの…… そういうのは余り言わないで欲しいんですが」
「あっ! ごめんなさい」
 清川巡査は口を手で抑え、頭を下げた。
「じゃ、話題を変えよっか。さっき、加山さん達がさっさと出ていったでしょ? あれなんだか分かる?」
「終電に間に合わないからじゃないですか?」
「車で帰るんだから終電なんてかんけいないのよ。加山さんはあなたのことを考えて急いだんじゃないかしら」
「えっ……」
「あなたが下着を持っていないのを知ってたのか、知らなかったとしても何かしら女性同士で話させようと、したんだと思うよ」
「そっか。だから」
「中谷さんは何を考えてたか知らないけどね」
 亜夢は笑った。
 地下鉄の駅付近まで歩くと、コンビニが開いていた。中には会社員らしいスーツの男と、バイト帰りか大学生のような男の人が一人、本を立ち読みしている。
「(なんか恥ずかしい)」
 亜夢は小声でそう言った。
「(大丈夫。私も買ってるから。私が後ろに並ぶからなにを持ってレジに行ったか見られないし)」
 亜夢はうなずいてカゴを取った。
「あ、そうだ。乱橋さん食事は?」
「まだです」
「じゃあ、食べるものを選んで、そっちは私が買うから」
「え、遠慮します」
「そうじゃないの、お金はちゃんと署から出るから大丈夫、安心して」
「そうなんですか、何でもいいんですか?」
 清川はうなずいた。
 亜夢が手招きするので、清川が行くと、おにぎりの棚から一種類ずつカゴに入れはじめた。
「えっ…… ちょっと、何個食べるの?」
「あ、まだですよ」
 亜夢は、スパゲティと焼鳥、サラダをかごに入れた。
「おにぎりが…… 10個、スパゲティに焼き鳥、サラダ…… まあ、金額的には問題ないけど」
 亜夢が清川に向かって手を合わせた。
「スイーツも良いですか?」
「ええ。 ……けど、食べ切れるの?」
「雰囲気的には、ちょっと足らないかな、って感じです」
「マジ?」
 亜夢はニッコリ笑った。
 清川巡査はすこし呆れ気味だった。
 その後、亜夢はやっと下着を選びレジに並んだ。
 二人は買い物を終えると、地下道を着た通りに戻った。
 人気が無くなった頃、清川は言った。
「あのさ。下着を買うより、こんなに食べ物買う方が恥ずかしいよ」
「大丈夫ですよ。周りの人はこれを一人で食べるなんて思いませんから」
「はぁ…… 確かにこの量ならそうかもね」
 署に戻ると、二人は休憩室に入った。
「仮眠室は食事できるような場所がないのよ」
 清川はそう言ってテーブルの椅子を引いた。
 同じようなテーブルが幾つかあって、窓際で一人同じようにコンビニ食をとっていた。
 亜夢は清川の向かいに座ると、コンビニ袋をテーブルに置いた。
「清川巡査は食事は良いんですか?」
「私は夜勤だからね。もう少し夜が遅くなってから食べるの」
「すみません。それでは頂きます」
「どうぞ」
 すると、おにぎりのビニールをむき始めた。
 あっという間におにぎりが口の中に消えていった。
「えっ?」
 清川は亜夢の手元をじっと見ていた。
 小指を器用に使って真ん中の線を引っ張ると同時ぐらいに左右も引っ張って、ワンアクションでおにぎりが完成していた。