「何それ、どうやってるの?」
「(もぐもごもごごもごご)」
「あ、ゴメン。後で良いから」
おにぎりも、一口二口と消えていき、三口目には腹に収まっている。
「何なのこの|娘(こ)」
亜夢には聞こえないよう清川は顔をそむけてからそうつぶやいた。
しばらくその様子を眺めていたら、宣言通り、あっと言う間におにぎり十個を食べきった。
「すごいわね……」
「海苔がなければもっと食べれるんですけどね」
「何? もっと食べれるの?」
おにぎりのむき方を聞くつもりだったが、もっと食べてれるという方に驚きがいった。
「海苔は結構口の中での抵抗が大きいんで」
清川は自分が食べたわけもないのに満腹になった気になって、ため息をついた。
その間に亜夢は壁際にある電子レンジのところへ、スパゲティと焼鳥を温めに行った。
亜夢が戻ってくると、清川は言った。
「そう言えばさっきのおにぎりのむき方だけどさ」
「(もぐもごもごごもごご)」
「また?」
亜夢は自分の胸をドンドンと叩いた。
「だ、大丈夫?」
清川は立ち上がって亜夢の後ろに周り、背中を軽く叩く。
「ご、ごめんなさい。さっきのおにぎりのやつですけど。うちの学園で流行ってんですよ。だから練習したんです」
「そ、そうなのね。学校にいる頃って、変な事が流行るのよね」
清川は微笑みながら椅子に戻った。
食事を終えると、シャワーを浴びて下着を着替えた。
亜夢は脱いだ下着を洗剤で洗って干した。
「合宿所みたいでごめんね」
清川がすまなそうに言う。
仮眠室に案内されると、なるべく暗くなりそうな場所を選んだ。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
清川が仮眠室を出ていくと、亜夢は中谷から借りたキャンセラーを頭につけた。
「これ付けてたら、寝返りは出来ないな……」
しかし、これがないと超能力干渉電波が出ている都心では、超能力者は寝ることが出来ない。干渉電波のノイズが、超能力者の脳に直接影響を与えるのだ。
都心には、事件、事故の要因になりかねない超能力者を、都心から遠ざける為に張り巡らされたアンテナがある。携帯電波の受信アンテナに併設され、干渉電波を出しているのだ。
亜夢はタブレットで見せられた映像を思い出していた。
確かに中心に映っていた者にはとてもじゃないが、電撃を出すことはできないだろう。
しかし、映っていないもう一人がいるとしたら……
考えても答えが出ない問題で、悩んでいると、いつの間にか亜夢は目を閉じ、眠りについていた。
警察署内のエレベータを下りて、道に迷っていると、清川巡査が現れた。
「清川さん」
亜夢が呼ぶと、清川は反応して背筋がピンっとなった。
「ら、乱橋さん、どうしたの?」
「えっと、昨日下着を干していたところに行きたかったんですけど、場所忘れちゃって」
「ああ…… それならこっちよ」
清川がクルリと向きを変えて亜夢を案内する。
洗濯機と洗濯ロープが張ってある部屋に入ると、亜夢は首をかしげた。
「……どうしたの乱橋さん?」
「ないんです。下着」
「?」
清川もざっと洗濯ロープをみて、指差した。
「確か、ここにかけたわよね」
その先には確かに下着が干してある。
「違うんです。それじゃないんです」
「そうかしら? 場所が同じなら、多分これなんじゃないかしら」
「……」
「もしかしたら、誰か間違えたのかもね」
「どうしたらいいんですか?」
困った顔で清川をみつめる。
「とりあえず、これを持ってたら? 女子職員に間違えてないか、当たってみるけど」
「えっ、他の人のを持っていくんですか?」
「大丈夫、洗濯したからここに掛けてるんだから」
亜夢はじっとその下着を見つめる。
「大きさは大丈夫そうですけど……」
清川がパッとその下着を取って、亜夢に押し付けるように渡した。
「大丈夫、大丈夫」
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