らせんの通路を、どんどんと降りていく。
 以前来た時よりももっと奥深く下がったところに、最後の警備が立っていた。
「ごくろうさまです。身分証を拝見します」
 鬼塚刑事は、警察手帳と身分証を出すが、私は何も提示しない。
 警備の人が、こちらを睨む。
 意図が分からなかったが、自然と私もにらみ返していた。
「気を付けて」
「ああ」と言って鬼塚が敬礼をして返す。
 私も見よう見まねで敬礼をする。
 正面の穴にエレベータのカゴが降りてきた。
「これ? ですか?」
 鬼塚が乗り込むと、大きくカゴが揺れた。
 続いて私が乗り込む。
 警備の人が近づいてきて、何か操作した。
 再びの敬礼。
 鬼塚刑事は背中をまげて、相手に見えるよう敬礼する。
 ゆっくりとカゴが上昇しはじめる。
 時折通過するフロアにも扉はなく、ただ真っ暗な空間が広がっている。
「あそこ、どうなっているです?」
「データセンターとしては動いているよ。よく見てみるといい。サーバーやスイッチのLEDが見えるはずだ」
 確かにデータの送受信やストレージのアクセス、電源、といった類のLEDが点灯、点滅している。
「な、何か動きました」
「ここは、ロボットが管理しているからな。そいつが動いてるんだろうさ」
「ロボット?」
「テープメディアの定期交換や、壊れた電源やストレージユニットを交換しているのさ」
 真上には〈転送者〉がうようよいるのに、〈某データセンタープロジェクト〉は止められないというのか。
 フロアはどんどん上がっていく。
「もう始まって止められないからな。中国はこの塔と同じ規模のものが三基稼働していて、四基目を建ているところだそうだ。もっとも、データ密度が基準に達していないらしくて、ドイツに作られた最新の一基と同じ容量らしいが」
 フロアの様子をもっとみたくて近寄って眺めていると、景色が一瞬で床の断面に切り替わった。
「おいっ、ぼーっとしていると、危ないぞ。うっかり首を出したら、切られて死ぬんだからな」
 危ない。自分でも危なかったと思う。
 私は上を指さして言う。
「鬼塚さん、こんな状態で、ここまでデータを収集する必要ってあるんですか?」
「なにしろ〈某データセンタープロジェクト〉は人類の未来をかけたプロジェクトらしいからな」
「そうじゃなくて」
 鬼塚刑事は両手を広げ、肩をすくめた。
「俺に理由がわかると思うか?」
「……」
「その通りだ。俺に聞いたって答えば出ない」
 床を過ぎると、またフロアの様子が見える。
 フロア表示を見ると『B3』となっていた。
「おお、そろそろだな」
「これ、どこまで行くんですか?」
 急にフロアから流れ込む空気が冷たくなってきた。
 私は上着の前を合わせ、ジッパーを締めた。
「一階で止まる。そこからは階段だ。一階から上は極寒だからな、〈転送者〉の動きも鈍い。鈍いが、パワーは一緒だぞ」
「はい」
 正面を見つめる。
 次は床、次がフロア、床、フロア、ときたら停止する。
 数えながら、待つ。
 真っ暗なフロアが見え始める。
「出るぞ!」
 鬼塚が言った。よくみると、そこは真っ暗なのではない。〈転送者〉のE体がこの中に入ろうとしているのだ。
「〈転送者〉をカゴ内に入れるな」
「はい!」
 動きは鈍いが、どんどんこっちに押し寄せてくる。