「この中の扉を……」
いくつかの扉だけでも減らしておけば、次に来た人間が、少しだけ楽になる。
また次も頑張ってフロアの扉を破壊して、と少しずつ減らしていけば……
「木更津を取り返すことが先だ」
頭の中にマミの姿が浮かぶ。
友達以上、恋人未満…… いや、そう言っていいのかも分からないが…… とにかく大切な人。
「はい」
上のフロアへ向かう通路を急ぐ。
〈転送者〉の増殖スピードも遅い。
そのまま階段を上がると、上のフロアが見えた。
同じつくりだが、サーバールームへの扉が壊れている。
「この中…… 〈転送者〉が……」
「すごい数だな」
こちらに気付いたのか、気づいていないのかわからない。
〈転送者〉の反応が鈍すぎるのだ。
これだけの数がいるにもかかわらず、通路側にいないのも変だった。
「来たな、白井公子……」
どこからか声がした。
「(おい、俺は階段に下がっている。わかってるな?)」
鬼塚刑事の方を見てうなずく。
「マミ! どこ?」
階段付近から入り込んで、壊れた入り口からフロアをのぞき込む。
「こっちだ」
通路に、新交通で戦った、あの長い髪の女が立っていた。
「私が〈扉〉の支配者だ」
そう言って、棒状の武器で床をつく。
「違う、こっちの人の意識を、そのカチューシャで乗っ取っただけでしょう?」
「何が違う? だとしても〈扉〉の支配者の言葉だ」
「そんなこと、どっちでもいい。マミは? さっきのはマミの声でしょ?」
「フロアに入れ」
女は棒を地面と水平にして、こっちに突きつけてきた。
「さあ、行け」
私は手を上げてフロアの方へ進んだ。
「どうすればマミを返してくれるの?」
ガツン、と棒を床に叩きつける音がした。
「さっさとフロアへ入れ」
中にいる〈転送者〉が下がって道を空ける。
ゆっくりの中へ進んでいくと、大量にあるサーバーラックの中の一つの扉が開き、光を発するとそこから〈転送者〉がこちらに出てくる。
こうやって少しずつ〈転送者〉が増えていくのだろう。
「木更津マミ!」
後ろで女が叫んだ。
たくさんのE体が下がっていくのに逆らって、真っ黒い大の字のような〈転送者〉がこっちに出てくる。
前を塞いでいたE体が避けると、私は思わず走り出した。
「止まれ!」
その大の字形の〈転送者〉の頭部分から、マミの顔だけが出ていた。
〈転送者〉に体が埋め込まれたようだった。
マミは目を閉じていたが、急に眼を開いた。
「来たな、白井公子」
感情のかけらも感じない声だった。
カチューシャでコントロールされているより酷い状態なのかもしれない。
「お前はこれと戦うのだ」
「えっ?」
「戦うには木更津マミごと倒すしかないな」
振り返ると女は笑っていた。
「お前にマミを助けられるかな」
女の両端にE体が立った。
「やれっ、白井公子を倒せ!」
「はい」
そう言うと、マミを取り込んだ〈転送者〉が私に向かって動き始めた。
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