困惑する亜夢肩を叩き、振り向かせ、両肩に手をかけエレベータの方へ押しはじめた。
「……」
亜夢は洗濯場を振り返りならがらも、押されるがままにエレベータに向かった。
亜夢は準備を終えると、清川に連れられて加山と中谷の待つ会議室へ行った。
加山から、今日調査する場所と方法について語られた。
「……ということで、この地区を捜査する。乱橋くんがもし映像の人物を特定した場合は、一人で追いかけたりしないように。必ず私か中谷に言うんだ」
「清川さんは?」
「むろん、清川巡査に言ってもらっても構わん。とにかく乱橋くんの単独行動は厳禁だ」
亜夢は「はい」と言ってうなずく。
「では出発だ」
四人が立ち上がると、亜夢の正面にいた中谷が話しかけた。
「昨日は寝れた?」
「はい。このキャンセラーのおかげです。これ、どっかで売ってないんですか?」
中谷が何か話だそうとしたところを、加山が手で口を抑えた。
「乱橋くん。悪いが、このキャンセラーについては他言無用だ。捜査時は中谷に方で預からせてもらう」
亜夢は清川にたずねる。
「(他言無用ってなんですか?)」
「絶対、言っちゃダメってこと」
「なるほど」
四人は警察署の裏手の駐車場に移動し、一台のパトカーに乗り込んだ。
清川巡査が運転し、亜夢は後ろの真ん中に、両脇に加山と中谷が座った。
亜夢はあることに気がついた。横に並ぶ車のドライバー、乗客がこちらをチラチラみてくるのだ。
「加山刑事、何故皆こちらを見るんでしょう」
「警察車両が珍しいんだろう。気にするな」
「……」
中谷の口元が動いたが、何も言わなかった。振り返ると加山が中谷をにらんでいた。
「とにかく気にするな。すぐに慣れる」
車が大通りを外れて路地に入ると、加山が言った。
「そこらへんでいったん下ろせ。ここらだと、あのお寺さんに言ってとめさせてもらえ」
「わかりました」
清川が返事をする。
「さあ、降りて」
亜夢は周りをみながらパトカーを降りた。
高層ビルとはいかないが、路地側にもビルが並んでいるオフィス街だった。
車が走っていた表通りとは違い、人影もまばらだった。
加山について歩くと、路上の隅でタバコを吸っている男たちがいた。
「あ、あの、こっち睨んでます……」
「気にするな。パトカーから降りると目立つから見ているだけだ。お前、ヒカジョじゃ喧嘩の女王らしいじゃないか。何ビビってんだ」
「ビビってません」
ムッとした顔つきになり、加山の前をすたすた歩き始めた。
「そっちじゃない」
加山に言われて道を戻り、またその後ろをついてあるいた。
そのまま裏通りを歩いていると、見たことがある風景が目に入ってきた。
「あっ、ここ」
亜夢の声に、加山が答える。
「そうだ、昨日の映像の場所だ」
しばらく歩くと、道を撮っている防犯カメラも見えた。
「なんとなく焦げ跡がありますね」
「カメラは交換してつけなおしているんだが、周りまではきれいにならなかったようだな」
亜夢は映像の中心に映っていた人物が立っていた場所に進む。
「ここから……」
カメラの側を振り向く。
「ということは」
そう言って、カメラの向こうを見ている。
「何か見えるの?」
中谷が亜夢の後ろに回る。
「遅くなりました」
清川巡査がやってきて、加山に頭を下げる。
「寺の住職には言ったか?」
「はい」
加山はその場で真上を見上げる。
亜夢が見ていると思われるところを見つめるが、何があるのかわからない。
「何を見ているのか、言ってくれるか?」
「……」
亜夢は何も答えない。
場の全員が亜夢の答えを待っていた。
「捜査の協力をしてもらうために来てもらったんだが」
「まだぼんやりしたイメージだけなので。すみません」
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