亜夢は両手を前で重ねて頭を下げる。
 加山の目尻が少し上がった。
「この新しいカメラにしてからの映像は見れますか?」
「中谷。頼む」
 加山は中谷の肩をポンと叩き、内ポケットからタバコの箱を取り出しながら路地の後ろへ消えた。
「お願いすれば見せてくれるはずだよ。行こう」
「加山さんは?」
「……」
 中谷は何も答えなかった。
 かわりに清川が亜夢の手を引いた。
「亜夢ちゃん、ちょっと」
 少し中谷と距離を取ると、
「あなたがさっきのことに答えないから、加山さんがすこしイライラしてるみたい」
「そうでしたか」
 亜夢は首を小さくうなずいた。
 中谷がビルの裏口から入り、警備室の人と話をしている。
 すぐに話しがついたようで、中谷が手招きした。
 小さな部屋に幾つかのモニターが並んでいた。
「椅子が足りなくてすみません」
 警備員は済まなそうに言った。
「いつぐらいの映像をごらんになりますか?」
 中谷は部屋のカレンダーをみて言った。
「新しいカメラつけたのはいつでしたっけ?」
「事件の二日後です」
「ここか」
 中谷はカレンダーの日付を抑え、亜夢の方を見た。
「じゃあ、そこから六倍ぐらいで」
「六倍?」
 警備員はリモコンを見ながらボタンを押すと、映像の再生が始まった。
 そもそも秒なんコマも撮っていない映像が、六倍で再生されると、何が映っているのかはっきり認識が出来なかった。
 朝夕や、天候の変化で、急に明るい画像になったり、暗くなったりするのがかろうじて分かる程度。
 亜夢はそれをじっと見ている。
「止めてください」
 慌てて警備員がリモコンを操作する。
「すみません、リモコン借りてもいいですか?」
「いいですよ。操作わかりますか?」
「わかりません。時刻の指定のしかただけ教えてください」
 亜夢はリモコンを受け取り、言われたとおりに操作しながら、時刻を打ち込んだ。
「ちょっとここをみてください」
 映像が再生される。
 中央に、昨日タブレットで見たような位置に人物が歩いてくる。
 中谷が気がついたように声を上げる。
「あ、こいつ、昨日の……」
「え、何なんですか?」
「清川巡査は見ていなかったか」
「ほら、カメラに気づいたようにうつむいて」
「事件の後も、ここにくる、ということか?」
 中谷は亜夢からリモコンを取って、画像をもう一度再生した。
「顔が、良く、映ってないな」
 亜夢は、後ろで見ていた警備員に話掛けた。
「あの、警備の方ですよね?」
 警備員は姿勢を正した。
「あの人、見かけたことないですか?」
 警備員は落胆したような顔になり、首をふった。
「何度か警察の人にも聞かれているんだけどな」
「そうでしたか。すみませんでした」
「何度かきている、ってなれば、話は別、ってことはないですか?」
「うーん、けどこの映像じゃあわからないね。この時間帯だとビルの中の巡回とかしているからな」
 亜夢は唇を指で触りながら、何か考えている風だった。
 清川が、中谷に話しかけた。
「これ以外の角度のカメラないんですかね」
「どうだろう。たしかこっちはこのカメラだけだったような」
「なら、仕掛けるか」
 清川と中谷が一斉に振り返り、言った。
「加山さん!」
「中谷、同じ場所の低い位置にモバイルカメラを設置しろ」
 亜夢は立ち上がる中谷を止めた。
「またここを通るかは疑問です」
「乱橋君、何故そんなことを言う」