マミはまだ目をつぶっている。
「お願い!」
 力を抜いて、力をいれる。
 少し押し込んでから、強く引き抜く。
 背筋と、翼に力を込める。
「抜けろおぉ!」
 自分が目を閉じた瞬間、何かが起こった。
「!」
 閉じた目に光が入ってくる。
 分からず目を開けると、腕が抜けている。
「光っている?」
 腕が光っている。辺りにいたE体が横一文字に光が走り、輪切りになっている。
「な、なにが起こったの?」
「なんだ今のは」
 長い髪にカチューシャをした、〈扉〉の支配者の代弁者がよろよろと立ち上がった。
「〈転送者〉だけに効果があった、ということなのかな」
 輪切りになったE体から、光るコアが浮き上がって、吸い寄せられるように飛んでくる。
「いやっ!」
 腕にガツガツと当たっては消えていく。
「コ、コアが……」
 カチューシャの女も呆然とこちらを見ているしかなかった。
 頭を下げて、腕だけを高くかかげた。
 そこにコアが飛んでくるからだ。
 腕は光ったままで、まぶしかったが、中に青く文字のようなものが浮かんでいる。
「何? なんて……」
 また何個かコアが飛んでくる、私は怖くて顔をそむけた。
「えっ?」
 下にはマミが取り込まれた〈転送者〉が横たわっていた。
「何が起こったの?」
 倒れている〈転送者〉の体の一部が、光る私の腕に呼応しているのか、中で何かが光っているようだった。
 〈転送者〉の足の付け根あたりだ。
「コアが光ってる?」
 輪切りになったE体のコアも光っていた。
 おそらく、マミを取り込んだ〈転送者〉の体の中のコアも光っているに違いない。
 私は光ったままの腕を振り上げ、拳でそのコアをつぶそうと思った。
「まて、木更津マミがどうなってもいいのか」
 カチューシャの女が震える声でそう言った。
「……」
 確かにコアを破壊してマミがどうなるのかはわからない。
 マミが眠れば〈転送者〉の活動も止まる。
 逆も真、なのかもしれない。
「なら、マミを先に取り出すだけよ」
 私は足の爪を使って、〈転送者〉の体を裂いた。
 灰色のゼリーのような物質が裂け目からみえている。
 手をかけた瞬間、殺気を感じた。
「!」
 床に伏せると、女の持っている棒をかわした。
 もう一度、反対方向から同じスピードで返っていく。
「木更津マミは渡さない」
 〈転送者〉の体上を転がり進み、カチューシャの女との距離をとる。
 棒が届かないことを確認して、立ち上がる。
「あなたに勝てばいいのね?」
「うるさい!」
 また、棒を水平に振るってきた。
 サーバーラックを盾にするように後ろにさがると、ガツンと、ラックに棒があたった。
「ここでは棒は不利ね」
「うるさい!」
 今度は、まっすぐ突いてきた。
 寸前で避ける。
「もう、あなたが手詰まりなのはわかったわ」