『はい』
 二人は声を揃えて返事をした。
 少し坂を登って、お寺の駐車場につくと、加山が住職に挨拶に行った。
 残りの三人はパトカーに乗り込んで待っていた。
「ほら、これがパトレコよ。こうやって、一般的なスマホにつないで映像をサーバーに送れるの」
 クリップ状の円形のものをスマフォのUSBに接続してみせた。
 スマフォの画面がすぐに変わって、アプリが立ち上がる。
「なんですか? これ」
「これはね……」
「清川巡査」
 中谷が遮った。
「警察のアプリなんだけど内容については説明できないんだ。さっき言ったようなことをするためのものだよ」
「なるほど。秘密なんですね」
「私だって言わなかったわ」
「いや、言いそうだった」
「言いません。一般の人に話したらいけないことは知ってます」
 亜夢を挟んで睨み合いを始める。
 このまま喧嘩でも始めようかという表情。
「やめてください」
「その通りだ。清川巡査、警察病院に向かってくれ」
 加山がそう言うと、中谷がスマフォを見た。
「時間が時間だから、途中で食事にしませんか?」
「それなら、私」
 と清川が話そうとするところを中谷が遮る。
「乱橋くんの食べたいものを聞こうか」
「……」
 亜夢は頭に浮かんだ食べ物があったが、言い出せなかった。言い出せる雰囲気ではなかった。
「乱橋さんはめちゃくちゃ食べるんだから。私、いい店知ってるよ」
 亜夢は間髪入れずに応えた。
「清川さん、それいいですね」
「バイキング形式で時間で値段が違う食べ放題の店なの」
「すごい! 決まりですね!」
 ルームミラーに映る清川は満面の笑顔をたたえていた。
 
 
 
 食事の後、再びパトカーで移動して、警察病院についた。
 面会の手続きを取ると、事件の被害者である警察官のいる病室をたずねた。
 その男性警官は何箇所かのやけどと、投げ飛ばされた時に骨にヒビがはいったらしい。
「何度も同じことをきいてすまないな」
「これも仕事ですから」
「まずは、当時のことを初めから話してもらっていいかな」
「はい」
 男は話し始めた。
「その日の勤務は、日勤で付近の巡回をすることになっていました。しかし、テロ事件が入り道路封鎖をするために車両をつかって坂の下の道に集合しました」
 中谷は話を聞きながら何かパソコンを操作していた。
「封鎖しているところに例の映像の人物が現れ、何か話してました。私のところからはよく聞こえなかったんですが、すぐそばの仲間から後で聞いたのですが、警察官を馬鹿にするような言葉で罵ったそうです」
 男は、ベッドの横に置いてあった水を少し口に含んだ。
「その後、そいつが封鎖のためのバリケードを勝手にどかそうとしたので、何人かが抑えにかかりました。すると、まるでワイヤーでつっているかのようにふわっと飛び上がり、逃げ出しました。そのとき、全員にその人物を捕まえろ、という指示が入りました」
 男は手で飛び上がるさまを表現してみせた。
「自分らがその人物を追いかけていくと、今度は光る光線、今考えれば雷だったんですが。被疑者は雷を追いかけてくる警官に撃ちました。次々に何人も倒され、これは銃で撃たないとやられる、少なくとも私はそう思いました。考えたあげく銃を抜きました」
 加山は窓の外を見ながら、「なるほど」と言った。
「私は銃を抜き、まずは上空に向けてから『止まれ、止まらないと撃つ』と言いました。被疑者は振り返りましたが、こちらの指示を無視しました」
「それはどこら辺での話ですか?」
「もう、あのビルの映像の近くですね。自分がそう言った直後、何人かが撃っています」
 亜夢は、「私が見た映像では、狙った人物が弾丸をはじいたようには思えなかったんですが、他に誰かいませんでしたか?」と問う。
「えっ? 自分も見たのは、あの中央に映っていた人だけでした。だれかが周囲にいたら、銃は撃たなかったと思います。だから、あの被疑者が弾丸を弾いたのだと思いますが」
 男はびっくりしたように目を丸くしていた。
 そして何か気づいたように、「君、もしかして超能力者?」と言った。
「すまない、そこは話せない」
 加山が言うと、男は話をつづけた。
「立ち止まっていたので、全員で一斉に捕まえることにしました。声をかけて、同時に飛び込もうとすると、再び電撃が走りました」
「そこで怪我を?」