「加山さん連れてくるのは勘弁してください」
「じゃあ、もう少しまけて」
 みきちゃんは立ち上がり、「こういうのをパワハラっていうのよ」と亜夢に向かっていった。
 三人はレジに向かい、さっき言っていた金額よりさらにおまけした金額で清算した。
「亜夢ちゃんは、そこで着替えちゃって」
 試着室に上がると、亜夢が靴をみてから清川の方を見た。
「そのローファーでも似合うわよ」
「残念だけど~、靴は違うお店で買ってね♡(ハート)」
「なにその言い方。ちっとも残念そうじゃないじゃない」
「(値切りが酷いからでしょ)」
「なんか言った?」
 みきちゃんは手を振って「何も言ってないから」と言って否定した。
「今日のことを考えると」
 亜夢が言った。
「運動靴がいいですね」
「うんどーぐつ、って…… まあ、そうね」
 清川は亜夢の恰好を見ながらそう言った。
 みきちゃんが通りの奥を指さして「あそこ」と言い、
「あの店なら欲しい靴あるんじゃないかしら?」
 と言った。亜夢はその方向を見て「ありがとうございます」と言って歩き始めた。
 清川はみきちゃんをつついてから、亜夢の後を追った。
 みきちゃんは、笑顔で、「ありがとうざいました~」と言った後、
「(二度と来んな)」
 と吐き捨てた。
「亜夢ちゃんちょっとまってよ」
 人混みに邪魔されてなかなか追いつけなかった清川が、声をかけた。
 亜夢は振り返って立ち止まり、
「あ、ごめんなさい」
 と言った。
「靴がないと、やっぱり捜査の時は歩きますからね」
「そうね…… この服なら、スポーツシューズ系でも合わせられそうだし」
 二人で歩き出した。
「さっきのみきちゃん、って人、何者なんですか?」
「幹夫くんのこと、気になるの? みきちゃんはね、ちょっとね…… 詳しくは言えないけど、いろいろ捜査協力してもらったり、その逆だったり」
「その逆ってなんですか?」
「やばいところからお金借りたりね、悪い集団にかかわったりしてるから、もめごと多かったのよ」
 亜夢はさっきの店の方を振り返った。
 看板に『Suger Boy』と書いてある。
「あれ? あのお店、男の子向けでした?」
「違うわよ。なんで? 思いっきり店の中見てたじゃない?」
「けど…… ほら、この袋も、店名も『Suger Boy』って」
「ふつうじゃない? ま、気にしないで」
 清川は亜夢の肩を押して、通りを進んだ。
 結局、シューズも黒系でワンポイント色の入ったものを買い、その場で履き替えた。
 他にも必要な衣類をそろえてから、署に戻ったころには、夕方になっていた。
 清川が制服に着替えに行って、亜夢が一人で一階のフロアで待っていた。
「おお、乱橋くん、戻ってきたか」
「加山さん。どうでしょうか?」
 加山は近づいてきて、亜夢の足先から頭までゆっくりと見た。
「似合うよ。健康的でいいんじゃないかな。それより、そうだ。宿泊のことだが、今日まで悪いが、署にとまってくれ。明日からは近くのビジネスホテルで泊まれる。さっき、ようやく許可が下りた」
「ありがとうございます…… そうだ、私の捜査協力って、いつまでなんですか?」
「学園には、一週間と言ってある。容疑者が捕まえられるとか、特定できたら、もっと早く帰ってもらえるが」
「そうなんですか…… あ、この服『みきちゃん』って人のところで買ったんです」
 加山の手が強く握られた。
 強く握られた手が、震えたように見える。
 亜夢は加山の手を見て、尋ねた。
「ど、どうしたんですか?」
「いや、幹夫は、どうも苦手でな」