「……本当にお願いします」
 ようやく市川さんが通話を切った。
 目にうっすらと涙を浮かべていた。
「(先輩がなくことはないですよ)」
 市川さんのその様子をみて、私は初めて彼女に対しての言葉遣いを変えた。
「ごめんなさい」
 私より背の高い市川さんが、抱きついてきた。
 市川さんの胸が押し当てられた。
 胸は不自然なほどに硬い感じだった。
 もしかして、私と同じくらい、胸がないのかしら。
「私…… 私……」
 苦しいぐらいに引き寄せられて、身動きがとれない。
 マミみたいに、柔らかい体ならば、まだ何か気持ちが安らぐこともあったのだが。
「(市川先輩、少し苦しいです、力を抜いてもらっていいですか)」
「あっ…… ごめんなさい。私……」
 市川さんは突き飛ばすように体を離して、私に向かって頭を何度も下げた。
「(あの、ですから……)」
 さっきまで私の無礼な言葉遣いを謝りたいくらいな気持ちになってきた。
 すっと市川先輩が近づいてくると、私の手をとった。
「また判断に迷ったとき、そばにいてもらえないかしら…… あっ!」
「副会長! そろそろ集会の時間です」
「そこにいたんですか、副会長」
 市川さんの取り巻きがやってくると、波にさらわれたかのようにあっという間に寮へ入っていってしまった。
 玄関先にチアキが出てきて、乱暴に手招きした。
「キミコ何してんの? 集会だってさ」
 はいはい、と返事をしてそそくさと寮へ戻った。
 そのまま食堂に入ると、市川さんは食堂の中央におかれた台の上に立って、寮生をじっと見ていた。
 そして、神代さんも含めたクラス委員をふくめた生徒会の連中は、市川さんの両サイドに並んで立っている。
 騒がしいなか、生徒会の子が『注目』と言うと、しんとなる。
 まもなく、市川副会長が話し始めた。
「今、集まってもらったのは、ご存知かと思いますが寮監の件についてです。本日17時ごろ、寮監が倒れられ、意識不明の状態となりました。学校へ確認は取っていますが、現在寮監がいつ戻るかや、どんな状態かもわかっていません。確実なのは今日から明日にかけて寮監のいない状態で、寮運営をしなければならないことです。たとえ寮監がいなくとも、食事、お風呂、消灯についてはこれまでの既読通りであり、なんらかわることはありません。食事については、配膳と片付けに関して、生徒へ仕事の割り当てがあります。ご協力をお願いいたします」
 ……なんだ。
 そんな情報しかないのであれば、わざわざ寮生全員を集めてここで話す必要もなかったのではないか。
 私はそう思った。
「繰り返しになりますが、寮監の状況ですが搬送先の病院名や、病状については不明です。学校側からの連絡は私に入ることになっていますので、追って連絡します」
 しん、とした後、『注目』と言った生徒会の子がまた話した。
「何か質問はありますか?」
 挙手した|娘(こ)を当てて、『どうぞ』と言った。
「食事のかたずけですが、皿などの洗いも行うのでしょうか?」
 話し終わりに市川副会長がうなずいてから、話しを始めた。
「仕事の割り当てを作っていますが、食器類の洗浄を含みます。明日の朝食についても同様に配膳と片付けがありますが、片付けは基本的に機械に流し、機械から出てくる食器を並べる作業となります。明日の朝食の当番の方が、授業、部活への出席が遅れることは許可を得ています」
 えぇ~、やるのかよ、という感じの声があがった。
「静かに。他にありますか」
 後は、超細かい内容の確認が何回かあった。
 一通り質問が出きったと思われた時、市川副会長が口を開いた。
「さきほど、急きょ考えたのですが、皆さんの承認を得たく」
 寮生はさして注目していなかったが、前に並んでいた生徒会関連の子が、一斉に市川副会長の方を向いた。
「白井公子さん前にきてください」
「えっ?」
 思わず声を上げてしまった。
 やたら静かだったせいで、その声が変に浮いてしまった。
「早く前にきてください」