「あ、いいですよ。わるいですから」
「いいのいいの。(しゅみでやってるんだから)」
「えっ、今なんて?」
「なんでもない、なんでもない」
 清川が柔らかいボディスポンジを泡立てて、亜夢の背中を洗い始めた。
「すみません」
「亜夢ちゃん肌綺麗ね」
「そんなことないと思いますが、ほめられるとうれしいです」
 清川が洗ってくれるのは、こするというより、スポンジをあてる感じで汚れが落ちる感じがしなかった。
「さわってもいい?」
「えっ?」
「やわらかそうだし」
「いや、あの」
「ダメ? なの?」
 亜夢は清川の声の変化に振り返った。
 ボディスポンジをぎゅっと持ったまま、泣きそうな顔をしているのがわかる。
「いや、ダメとかそういうんじゃなくてですね」
「ありがとう! 亜夢ちゃんやさしいのね」
 言うなり、亜夢に抱きつく。
 普通に抱きついているというより、体を押し付けていた。
 その勢いで、亜夢は仕切りに背中があたってしまった。
「じゃあ、さわるね?」
 体と体はすでに触れあっている。
 清川は肩に指先をおき、二の腕へ下げると、軽く押して、離した。
「ひゃっ、思った通り触り心地いいね」
「清川さん」
「ほっぺも」
 清川は亜夢の脇から手を回し、亜夢の両頬をそれぞれの手の指先で触れた。
「ぷにぷにだね!」
「き、清川さん……」
「なぁに、亜夢ちゃん」
「顔が、顔が近いです」
 清川は手のひらで亜夢の頬にふれ、両耳へ手を回すと、さらに顔を近づけた。
「私がこれから何をするかわかる?」
「いえ…… わかりません」
「あのね……」
 片方の足が、亜夢の足の間に割って入るように押し付けられる。
 大事なところをわざと刺激しているようだ。
「あっ…… あの……」
「気持ち」
「!」
 ガラッとシャワールームの扉が開く。
「清川巡査いる?」
 と、女性警官の声。
 急に身体を離すと、清川は扉の方へ返事する。
「なんでしょうか?」
「加山さんが、行動記録の件で、話が聞きたいって」
「はい」
「早く行ってあげて、待ってるらしいよ」
「はい」
 裸のまま敬礼している。清川に、女性警官も敬礼をして、扉を閉めた。
 曇りガラスの扉から影が見えなくなると、清川は大きなため息をついた。
「……」
「私は上がるね。亜夢ちゃんじゃなかった乱橋さん…… 乱橋さんはゆっくり身体温めてからでいいから」
「……はい」
 後ろ姿のまま清川は軽く手を上げて、シャワールームを出ていった。
 亜夢も体を洗い終えると、タオルで全身をぬぐって、新しい下着に着替えた。
 寝間着として、清川が貸してくれたジャージを着た。
 仮眠室へ行くと、スマフォに充電ケーブルをつなぎながら、電話帳をスクロールした。
「あっ」