何故敬語? この|女性(ひと)同級生じゃないのか?
「わかりました。あなたは下がっていいわ」
「はい。失礼します」
 私は扉の前に取りのこされた。
 どのタイミングで扉を開けていいのかわからない。
 待っていると、小さい音がして扉が少し開いた。
「白井さん、どうしたの? 入ってらっしゃい」
 白くて、細い指が手招きした。
 私は恐る恐る扉を開けて、中に踏み込んだ。
 部屋は私が今まで嗅いだことのない香りに包まれていた。
 バラか何かなのだろうか。
 照明も直接床を照らしているのではなく、壁や天井を照らす間接照明になっている。
 同じ寮部屋とは思えなかった。
 市川副会長はピンクの部屋着の上に、薄いガウンのようなものを羽織っていた。
「学校側から連絡が来たと……」
「ええ。そうなんですが……」
「何て言ってたんですか」
「ええ。そのことなんですけど……」
 何か様子がおかしい。
 私は周りを見回した。
 〈転送者〉か、もしくは〈扉〉の支配者、あるいはその手先……
「どうしたんですか?」
「それは私のセリフです。市川副会長、何か隠してませんか?」
「……」
 口をつぐんで視線を落とす。
 何か隠している。
「副会長」
「待って」
 市川副会長は、下を向いたままベッドに座った。
 何と声をかけていいのかわからなかった。
「あの……」
 だめだ、このままここにいても何も変わらない。
「帰ります」
 私をここに引き留めることが〈扉〉の支配者の狙いかもしれない、と思った。
 すぐに部屋に戻らないと、もしかしてマミがまた……
「待って!」
 後ろから抱きとめられた。
 ただならぬ雰囲気を感じ、それを振り払わなかった。
「……だから、何があったんですか?」
「ごめんなさい」
 市川副会長は私の耳元でささやくように言った。
「私、嘘をついた」
「えっ、もしかして」
 私はすぐにマミのことを心配した。
「電話があったわけじゃないの。あなたに部屋にいてほしかったの」
「えっ…… それはどういう……」
 後ろから、ぎゅっと抱きしめられる。
 急に副会長の体を意識する。
 さっきの硬い感じがない。やわらかい胸。
「あっ、あの……」
「私、本当は辛かったの。生徒会副会長なんてできない。ガラじゃないの。だって、さっきみたいな時に決断できない」
 私が振り返ると、市川副会長は涙を流していた。
「さっきは強く言いすぎました。ごめんなさい」
 すっと顔を寄せてきて、一瞬、キスをされるのかと思ってしまった。
 そのまままた抱きしめられた。
「ちがうの。あなたは強いわ。強くて素敵」
「えっ?」