耳元に吐息をかけるように、顔を寄せてくる。
 熱っぽい体といい、別の意味で様子が変だ。
「市川先輩、あの…… 私、なんで抱きしめられているんですか?」
「えっと…… 私…… あ、先輩はやめて。はるこ、って呼んで」
「え? いや、そんな……」
「私仲良くしたいの。あなたと仲良くしたい」
 急に正面で向き合って、唇を近づけてくる。
「私のこと、嫌い?」
 そんな馬鹿な。
 この流れで、嫌い、というわけにはいかない。
 そんなことを言えば、またさっきみたいに泣き出してしまうだろう。
 それに、どうでもいい、と思っているひとを、嫌い、というのも何か悪い気がする。
「そんなことないです」
「ありがとう」
「!」
 抱きついたまま、市川先輩は体をひねった。
 私は振り飛ばされるように、先輩のベッドに倒れ込んだ。
 そして、そのまま市川先輩は私の上にのしかかった。
「すこし付き合ってくれるわね」
「あっ、あのっ……」
 先輩が馬乗りになったかと思ったら、そのまま唇を重ねてきた。
 どうしよう、抵抗しないと。
「!」
 先輩は私の表情から何かを感じたようだった。
「あなた、女の子が好きだって聞いてるわ。きっと、マミって子ね」
 なんで誰にも言っていないことが、いままでろくに話したこともない市川副会長の耳にはいっているのだ。
「あなたがいまここから抜け出せば、寮の放送で木更津さんを呼び出して、あなたが好きなことを言うわ。それも、ただ友達としての『好き』じゃなくて、性的な意味でも、ということをね。いきなりそれを聞かされた木更津さんはどう思うかしら?」
「なっ……」
 市川先輩は、叫ぶ直前に私の口を手で押さえてきた。
「言われたくなければ……」
「……」
 私は抵抗をやめるしかなかった。
「素直ね」
 馬乗りになった市川先輩をみて驚いた。
 どう考えてもあの硬い感触とは違う、ふっくらした乳房があるのだ。
「あ、あの、む、胸が……」
「?」
 市川先輩のスマフォが振動していた。
 先輩は唇に人差し指をあて、静かにスマフォを手にとった。
 画面を確認すると、すぐに着信した。
「はい、市川です」
 高い声、かしこまった口調。
「はい」
 机においてあったメモに書きとっている。
 私は上体をおこし、乱れた服をなおした。
「はい」
 私が部屋を出ようと立ち上がると、先輩は懸命に座れ、とゼスチャーする。
 そして、次には、口から何か出すように手を動かす。
 マミに言うぞ、という意味だろう。
「はい。確かにそうですが、こちらで分担を決めて……」
 先輩が、もの凄い形相なので、私は諦めて椅子に座った。
「はい。わかりました。到着と指示を待ちます」
 スマフォを切ると、市川先輩はため息をついた。
「この続きは今度。緊急で仕事が入ったわ。白井さん、部屋に帰っていいけど、私のことを誰かにバラしても、私は同じことをするわよ」
「それはマミに言う、ってことですか」
 先輩はうなずく。
「なんでそのことを知っているんですか?」