亜夢は中谷から借りていた干渉波キャンセラーを頭につけた。
 そうしてスマフォを耳に持っていくと、ヘッドフォン型のキャンセラーにぶつかってしまうことに気づく。
「えっ? 何これ使えない」
 キャンセラーの片耳をずらしてみる。
 効果は十分ではないが、しないよりずっと快適だった。
「中谷さんに改善してもらおう」
 亜夢はスマフォから『奈々』を探し出し、電話をかけた。
「もしもし」
『あ…… あっ、亜夢っ!』
 亜夢は奈々が急に大声を出した瞬間、少しスマフォを耳から離した。
『どう、帰れそう?』
「すぐには帰れそうにはない。捜査内容はとかは言えないから、あれなんだけどさ」
『こっちは大変だったの』
「えっ、何があったの?」
『実はね……』
 奈々が学園であった話を始めた。



 話はその日の午前中までさかのぼる。
 非科学的潜在力女子学園から、亜夢が警察の捜査協力のためヘリで去った翌日の二時限目が始まった。
 奈々はぼんやりと学校の外、正門の方をぼんやりみていた。
『奈々! 奈々! あれ? そうか、奈々はテレパシーを感じないんだっけ』
 アキナはウエーブのかかった髪を後ろに流し、奈々に顔を寄せ、先程とは違い、小さく声に出した。 
「(奈々、奈々っ)」
 奈々は外をみている。
「(奈々! あんた、あてられてるよ)」
 奈々は、全く気がつく様子もなく、まだ窓を向いている。
 すると、ものすごいエンジン音が聞こえてくる。
「八重洲さん。八重洲奈々さん。次を読んでください」
「……」
「(奈々ってば)」
 アキナは机の下で手を伸ばして、奈々の足をつつく。
「(奈々っ!)」
「!」
 奈々は突然立ち上がった。
「先生、軽トラが正門に突っ突っ込んできます!」 
 奈々が言った瞬間、ガラスの割れる音、何かがぶつかった大きな物音がした。
 同時に目撃した、何人かの生徒のテレパシーが、奈々を除く全校生徒に伝わっていく。
「先生! 誰か学園に入ってきました!」
 壊れた軽トラから、男が出てきた。
 衝突したせいなのか、男は少しフラフラしている。
『何か持ってる』
『刃物、刃物もった男が学園に入ってきた』
 生徒が一斉に窓際に集まる。
『やばいって』
「ヤバいやばい、警備の人は?」
『大丈夫、来てる来てる』
『後ろに来てるね、警備の人』
「あっ、あのコ……」
 奈々が声に出す。
 アキナはそれに気づき、テレバシーで送る。
『そこ行っちゃダメ!』
 校舎の影で見えなかったのか、体操着の生徒がボールを抱えて歩いてる。
『へ?』
「危ないから逃げて!」
 奈々の声に反応し、体操着の女生徒はボールを落としてしまった。
 ボールを飛び越しながら、刃物を持った男が女生徒に近づく。
 逃げようと思って振り返ってすぐ、男に追いつかれてしまう。
 羽交い絞めにされ、目の前に刃物を出されて、声も出ないようだった。
 後ろから回り込もうと思っていた警備員は出ていくタイミングを失った。
「おいコラ、そこらへんで見ている奴!」
 教室の方へ叫び始めた。
「亜夢とかいう奴だせや」
「亜夢だって…… あっ、あいつ」
 奈々が思い出した。
 男が奈々の方を見た気がしたので、窓際からすばやく下がった。
 奈々はアキナの袖を引っ張り、言った。
「あいつ、昨日の痴漢男だよ」