「奈々!」
 奈々が扉に立っている。
「……先生、開けます」
「や、やめなさい」
 鈴木先生の制止を振り切って、奈々は扉の鍵を回した。
「よお。覚えてるぜ」
 人質に取っていたヨウコを放し、いきなり奈々の襟元を掴んで引き寄せた。
「お前の方がいい。あの亜夢とかいう女も出てきやすいってもんだ」
 ヨウコは突き飛ばされると、そのまま振り返らずに走って逃げた。
「……亜夢はいないわ」
「嘘つけ、お前と同じ学校だろうが。ここにいるんだろ?」
「昨日、今日は、亜夢、学校にきてない」
「昨日は学校に行ったろうが、俺の記憶力なめてんのか?」
 奈々ののど元にナイフを突き立て、教室へ押し込んだ。
 教室に入ると、小林は後ろ手に扉を閉める。
「こら、席につけ」
「やめなさい。罪が重くなるわよ」
「お前は先公だな? 先公は、この奈々とかいうやつの席につけ」
「いずれ警察がきて、あなたは捕まるのよ。逃げ切ることは出来ないわ。今その子を離せば罪は軽く……」
「いいから席につけ! 血を見たいのか?」
 奈々の肌に触れるか触れないか、というところにナイフを持っていく。
 小林は奈々の手をもって背後に回り、手首を後ろで縛った。
「最後に警察につかまるとか、そんなことはどうでもいい。亜夢ってやつに復讐しにきたんだからな。それさえすればさっさと出てってやるよ。ほら、亜夢ってやつを匿ってないで、早く教えろ」
 教室は静まり返った。
「ほら、あの席が空いているでしょう? 亜夢は今日いないのよ」
「ふん。どうせ、どっかに身を潜めてるんだろう? そこの掃除用具入れとか。そこのテーブルのしたとか」
 奈々を突き飛ばして、テーブルにぶつけた。
 テーブルは教壇と同じように、三面に目隠し用の板がついていた。
 手が動かない奈々はぶつけられると、そのまま折れ曲がるようにテーブルの上に上体をぶつけた。
 小林がやってきて、ガン、と大きな音が出るほど強く、テーブルの目隠し板を蹴った。
「だから、居ないって」
「うるせぇ!」
 奈々の短い髪を引っ張り、立ち上がらせると、膝で腹を蹴った。
 はねるように体をくの字に曲げ、そして床に倒れた。
「何するの!」
 鈴木先生が立ち上がる。
「知ってるぞ。お前ら超能力者だからな。どんだけやったって堪えやしないんだろう?」
「奈々は……」
 言いかけて、アキナは真実を言うべきか悩んだ。
 ほとんど能力がない、ことがばれたら余計酷いことをされるだろうか?
 それとも能力がある、と思われている方が、今みたいに乱暴されてしまうのだろうか。
「ほらぁ、立てよ」
 奈々は髪の毛を引っ張られ、また、無理やり立たされた。
「こんどはあっち」
 小林は用具入れを指さした。
 背中を蹴られながら、奈々は教室の後ろに進んでいく。
 アキナは頭の中で、男の蹴りと奈々の背中の間にものを挟むように力を働かせた。
「ほら、そこだろ?」
 アキナはもう一度強く働きかけた。
 しかし、奈々は強く蹴飛ばされ、勢いよく用具入れにぶつかった。
 ぶつかって跳ね返るように、奈々は床に倒れた。
「んっ……」
「ほら、わかったか? そこから出てこい。そうしたらこの女はここまでにしといてやる」
「だ、だから、亜夢はいないわ……」
 奈々は床に転がりならが、そう言った。
「奈々……」
 アキナは奈々を助けようと席を立ちかけた。
「ほら、席を立つな。座ってろよ? こいつがどうなってもいいのか?」
『アキナ、座って』
『けど、助けたい!』
『亜夢ぐらい力があれば、これくらい距離があっても出来るかもしれないけど、私たちには無理だよ』
『みんなの助けがあれば』
『失敗したら、奈々はナイフで傷つくのよ』
『……』
 また、奈々は髪を強く引っ張られ、立たされ、ナイフを突きつけられた。
「座れって言ってんだろうが!」
 大きな声に屈するように、アキナはゆっくりと席に座った。
 その時、校舎の外からパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「警察」