「……」
「?」
 新庄先生は食洗機をセットして、調理室を出て行こうとして立ち止まった。
「どうしたの? もう終わりよ」
「これを棚にしまうまでいます」
「……」
 先生は不思議そうな顔をしながら、調理室を出て行った。
 私は壁に背中を付けてうつむいた。
 作業中は忘れていた、様々なことが思い出されて泣いていた。
 ハンカチで涙をぬぐうと、新庄先生が入ってきた。
 そして、私の前に手を突き出す。
「?」
 そこには食堂の自販機に入っているアイスクリームが握られていた。
「お礼よ」
「……」
 私はそれを受け取る。
 先生は二つの丸椅子を引っ張り出してきた。私と先生は食洗機を向いて椅子に座った。
 私はアイスを食べながら、また泣いていた。
「どうした?」
「……」
「目に染みた?」
「……アイスが?」
 私がそう聞き返すと、先生は笑った。
「アイスは目に沁みないでしょ? 食洗機の蒸気とか、洗剤とかのはなし」
「なんだ」
 私も笑った。
「もしかすると本当にアイスが目に染みたのかも」
 新庄先生はまた笑った。
 そして、しばらく何もしゃべらなかった。
 私はこういう沈黙を打破する方法を知らな過ぎた。
 先生がアイスを食べきると、食洗機の方を見たまま、ひとりごとのように言った。
「……なにかあったの?」
 私は残り少ないアイスを口に放りこみ、何を話すか考えた。
 市川先輩に口止めされていることを言うわけにはいかない。
 けれど、いまの現状を伝えないと、寝る場所もないのだ。
「当てようか?」
 先生は私の方を見た。
「市川さんに追い出されちゃった」
 私はうなずいた。
「理由はきかないから。寮監のところで寝たらいいよ。ソファーしかないけどね」
「(ありがとうございます)」
 伝えたい気持ちはいっぱいあるのに、それしか声が出なかった。
 頭を撫でられると、我慢していた涙があふれ出てしまった。
 肩を抱きしめられると、声を出して泣いた。
 食洗機が止まっても、私達はしばらくそうしていた。
 食器をすべて片付け終わると、寮監の部屋へ入った。
 新庄先生はタイムスケジュールを見て、風呂掃除というところを指さした。
「手伝います」
 新庄先生は急に私の髪を手に取って匂いを嗅いだ。
「?」
 なんだろう、と思っていると、先生が口を開いた。
「お風呂、入れなかった?」
 ゆっくりうなずいた。
「じゃ、一緒にお風呂入ろうか。私も実はこの時間にはいるのよ。それまで休憩」
 先生は私の片を押して、ソファーに座らせた。
 そのまま先生は机に行って、パソコンを開いた。
「時間になったら呼ぶから、寝てもいいのよ」
 その声が聞こえたか、聞こえないかのあたりで、私は眠りについていた。



「さ、行こうか」
 小さな声だったが、眠っていた私はその一声で目が覚めた。