「ありがとうございました。すみません、それでは次の方をお願いします」
「あ、私で最後なんですけど」
 亜夢が清川に耳打ちした。
「私達が来たときに、外ですれ違った方がいるはずですが」
「?」
 首をかしげる。
「ちょっと待っててください」
 そう言って奥へ戻っていく。
 何人かが話し合う声が聞こえる。
 最初に出てきた女性が一緒に戻ってくると、清川に言う。
「そのすれ違った人って…… 男の人でしたか? 女のひとでしたか?」
 清川は目を泳がせて、亜夢のに助けを求めた。
 亜夢がまた耳打ちする。
「ちょっとどっちか分からなかったです」
「お客様のところへいったり営業に言ったりしているので、どの者かはわかりませんが……」
「じゃあ、今日お話聞けなかった人。その人達の名前だけでも教えていただけませんか?」
「名前を? 本人の承諾は取れないし……」
 最初に出てきた女性の人が、訝しげにこちらをみる。
「その人、なんなんですか。若い感じだし、格好も刑事さん、ってわけじゃないでしょう?」
「捜査上の秘密です。この人は関係ありません」
「清川巡査っておっしゃいましたよね。あなたの方も、本当に警察の人ですか?」
「なっ……」
 清川は警察手帳を見せた。
「なんなら電話してみてください」
「じゃあ、遠慮なく」
 女性はスマフォで警察に電話した。
「○○署の婦警だという清川あゆ、という方がここに来ているんですけど…… 間違いないか確認してもらえませんか」
 清川は腰に手を当てて立っている。
「……はい。 ……はい」
 タキオ物産の女性は少し申し訳なさそうな表情に変わる。
「はい。分かりました。ありがとうございました」
「……いいでしょうか?」
「疑ってすみません」
「では、その今日いないお二人のお名前を教えていただけませんか?」
「本人の承諾がないので話せません」
「これは捜査なんです」
「ダメです」
 決意は堅そうだった。
 清川は首を振り、亜夢も納得いかないようだったが、しぶしぶ首を縦に振った。
「わかりました。それでは……」
 立ち去ろう、と扉を向いた瞬間、ドアノブが回った。
「!」
 扉が開いて、このオフィスに入る前にすれ違ったと思われる、マスクをした人物が入ってきた。
「……」
「すみません、ちょっとお話を聞かせてもらっていいですか?」
 様子を見るような目つきで、ゆっくりとうなずく。
 亜夢と清川は、その人をつれて再びテーブルに戻った。
「あの、お名前をうかがっていいですか」
「……」
 清川は警察手帳を見せる。
「あっ、警察の方、ですか?」
 マスクの人物は、初めて声をだした。
 声からすると、女性で間違いなかった。
 制服の警官をみても警察と思われないのか、と清川はうなだれた。
「三崎京子と言います」
「あの、失礼ですが、マスクを取っていただいていいですか?」
 突然、亜夢がそう言う。
「?」
「こちらは捜査協力者です。すみません、私からもお願いします」
 三崎はとまどいながらもマスクをとった。
「これでいいですか?」
 薄くだが綺麗なピンクの口紅をしている。
 マスクをしていると中性的で男性とも見えなくはないが、性がどちらにせよ美形に違いなかった。
 亜夢がうなずくと、清川はそれを見て「ありがとうございます。結構です」と言った。
 三崎はまたマスクを着けなおす。
「このビルの付近で警察官に電撃を放った超能力者の事件、ご存知ですか?」
「はい。騒ぎになりましたから」
「当日はどちらに?」
「私は会社をお休みしていました。翌日きたら大騒ぎしていたんで、その時知りました」