「じゃあ、なんて言ったんですか」
「別に? 手伝いをさせるから一便バスを増やすのと、授業に遅れる、と話して了承してもらっただけ」
 頭がくらっとした。
「さあ、食洗機が止まったら棚にしまうわよ」
「……」
 すべての作業が終わって、私はエプロンを外し寮の外へ出た。
 日差しがあるのにも関わらず、少し寒気がした。
 バスがゆっくりと入ってきて、ロータリーを回り込んで止まった。
 新庄先生が寮の扉を閉めて、私の背中を軽く叩いた。
「さあ、行きましょう」
 ガラガラのバスの中で、先頭の座席に二人で座った。
 壊れそうなエンジン音の中で揺られていると、私は気持ち悪くなって嘔吐した。
 幸い、新庄先生が足元のバケツを取ってくれたおかげ、でバスの床にぶちまけることはなかった。
「大丈夫?」
 私のおでこに手をあてる。
「えっ、かなり熱があるけど……」
 ガツンっと大きな音がして、バスが止まる。
「〈転送者〉が出た!」
 運転手の成田さんはそう言って、素早くシフトレバーを操作する。
「全速力で突破する」
「待って! 私達が引き付けます」
「この前もそんなことを……」
「それ以上聞かないでください」
 新庄先生がそう言うと、成田さんは口を閉じ、じっとこちらを見つめた。
 シューっと大きな音がして、ドアが開いた。
 新庄先生が出ていき、私も手すりにつかまりながら降りた。
 ドアが閉まらないので、振り返ると、運転手の成田さんが言った。
「死ぬなよ」
 ドアが閉まる。
「熱があるようだけど、あなたにやってもらわないと学校が危ない」
 私はうなずく。
「分かっています…… けど、これで〈転送者〉の出現はマミを狙ったものじゃない、って分かったわけですね」
 〈転送者〉は私と新庄先生を見つけ、近づいてくる。
 ガツン、と大きな音がしたかと思うと、大きなエンジン音がしてバスが〈転送者〉の横を通りすぎる。
「あなたを狙っている…… ということは、我々はあなたを他の学生から離さなければならない、ということよ」
「……」
 マミと別れなければならないっていうこと? そんな、まさか……
「危ない!」
 そう言われて顔を上げると、〈転送者〉の太い腕が振り下ろされるところだった。
 前を蹴るようにして後ろへ飛ぶと、ギリギリでその腕をかわした。
「そこをどけぇぇぇ!」
 私はそう言って翼を広げ、〈転送者〉に爪を突き出した。
 〈転送者〉の腹をえぐり、コアを直撃した。
 パシュゥ、と空気が抜けるような、間抜けな音がすると、〈転送者〉の体はチリジリに消えていく。
「新庄先生、私一人はイヤです」
「けれど、他の生徒を巻き込んで」
 私はフラフラと新庄先生に近づくと、意識が遠くなっていくのが分かる。
 熱に浮かされているのだろう。
「!」
 新庄先生の様子に、私は後ろを振り返った。
 〈転送者〉が四体……
「ぶ、分裂した?」
「違うわ。さっきのは完全にコアまで消失した」
「でも、この数……」
 まだ息が整わない。
 体を動かしたからではなく、別の理由で呼吸が乱れているのだ。
「とにかくやるしかない!」
 新庄先生は、下半身を蛇に変え、一体の〈転送者〉に巻き付けた。
 力を入れたように顔をしかめると、ギリッと音がして、〈転送者〉の体も歪む。
 それを邪魔しようとする〈転送者〉に、私が蹴りを入れる。