「ありがとう」
 あ…… ヤバイ……
 視界が白んできた。
 何も見えない……
 
 
 
 目覚めると、私は保健室のベッドに寝ていた。
 体が麻痺したように動かない。
 ついたての向こうから声がする。
「新庄、なんてことをしたんだ」
 大きい影…… この声は鬼塚刑事だろう。
「あんな数の〈転送者〉がいるなんて予測しろったって無理よ」
 細い影は新庄先生の声だ。
「そういうことじゃない。白井は病院には行けない、体の秘密がバレてしまうかもしれいからな。俺たちだってそうだ。それなのに…… なぜ無理をさせた」
「そんなこと言ったって、〈転送者〉を放置出来ない。無理をさせるな、というなら警察が早く来るべきよ」
「警察に〈転送者〉を倒す力はない。分かっているだろう」
「じゃあ、どうしろっていうのよ」
「白井に無理をさせるな、と言っているんだ」
「話にならない」
「さっき自分で言ってたじゃないか。寮の仕事を手伝わせるとか、無理をさせなければ白井が倒れることは無かった」
 二人の会話を聞いているのだが、内容を理解できなかった。
 天井が何度も何度も落ちてくるように見えた。
 頭がイカレテしまったのだろうか。
「俺たちのような立場の医者を探すか、秘密を守れる医者をさがすしかない。今回は白井だったが、俺もお前もいつ逆の立場になるか分からない。いつまでも健康でいるともかぎらない」
「そんなこと考えてもしょうがない。こんなキメラの体は普通の病気なんかしないわ。病気をする時は死ぬ時よ」
「バカ、そこに白井がいるんだぞ。聞こえる」
 落ちてくる天井と、何度も何度も枕の中へもぐりこんでいくような感覚が襲ってきた。目を閉じても、そんなグルグル回っているような感覚が全身に感じられる。
「医者ではないけど、私がみるしかないでしょう」
 ついたてが動くと、新庄先生の気配を感じた。
『聞こえる?』
 先生は直接心に話しかけてきた。
 布団のなかで手を握ってきた。
『この前から試しているやり方を試すわ』
 なんのことだろう。
 それより自分の体がベッドを突き抜けて落ちていくような感覚を止めてほしい。
 ずっと落下しているような気分だった。
 鬼塚の言葉が入ってきた。
『俺は帰る』
 手が離され、扉が開きしまった。
 そして内側から鍵をかけた音がした。
 ついたてが動く音がして、今度は新庄先生がベッドに入ってくるのが分かった。
『今までより段階を上げる必要があるわ』
 掛け布団がめくられ、私はものすごい寒気を感じた。
「さ、さむい」
「もう少し我慢して」
 うっすらと目を開けると、新庄先生が上着を、いや、肌着や下着類までも脱ぎ始めていた。
 脱いだと思うと、私の病衣をまくり上げ、下着を外した。
「な……」
「大丈夫。力を抜いて」
 裸の二人が、ベッドの上で体を重ねた。
 そして、新庄先生がゆっくりと布団を引っ張ると、私と先生は布団の中の暗闇で向き合っていた。

 唇が重なりあい、舌が絡みあうと、唾液が跳ねる音がした。
 体と体を擦り付けあう感覚に慣れてくると、先生は唇からあご、どのもと、首筋と、唇を移動させた。舌が通ったあとに、唾液の足跡を残していく。
 首筋から、胸へ下りてきたとき、私は小山を上り始めているような幻を見た。
 高熱でうかされているのか、それとも快楽で目を回しかけているのか、悪いものといいものが激しくまじりあい、交互に、時にまじりあうように襲ってきた。