山咲が体を九の字に曲げると、中庭の石を敷いた部分に叩きつけられる。
 体を曲げて、顔面は守ったものの、叩きつけられた肩と背中にしびれが走った。
「この学校に何がある」
 走り寄って来て、そのままつま先が顔面をめがけて飛んでくる。私は腕を十字に合わせて顔をブロックする。
「何を隠してる」
 山咲はそう言いながら、十字に構えた腕の上から容赦なく蹴りを繰り返す。
「私は…… 何も知らない」
「じゃあ、誰が知っている!」
 さすがに蹴り続けたせいか、山咲も息が荒くなってきた。
 タ、タイミング……
「ほら、何か言えよ!」
 予備動作の大きい蹴りがからぶりして空を切る。次の瞬間、私のつま先が、山咲のあごをとらえる。
 羽ばたいて下がり、山咲と距離をとる。
「くっ……」
 その時、マイクロバスの大きなエンジン音が聞こえてきた。
 私は慌てて黒い翼をしまい込む。
 山咲は一瞬こっちに動いてから、反対方向にかけだした。
 追いかけようとしたが、小さな突起につまづいて転んだ。
 転がり終わって、立ち上がった時には、山咲は校舎の向こうへ走り去ってしまっていた。
「白井! どうした?」
 校舎の廊下の窓が開き、オレーシャがそう言った。
「なんでもないです」
「血だらけなのに、何言っているの」
 オレーシャの肩を借りて、再び保健室に戻った。
 私の血だらけのシャツをオレーシャが洗って、干してくれた。
 しばらくするとオレーシャは保健室を出ていき、またしばらくすると、誰かが入ってきた。
 ついたてを動かして、ベッドの方へ姿を現した
「新庄先生」
「誰にやられたの?」
「山咲」
「警察官だっけ?」
「警察官をかたっている男です」
 新庄先生はベッドの横に椅子を出して座った。
「そうだったわね。通学路に〈転送者〉を呼び込む〈扉〉を作っているとか」
「本人もそう言ってました」
「さっさと鬼塚につかまえてもらわないと」
 立ち上がろうとした新庄先生の手に触れると、座りなおした。
「新庄先生」
「どうしたの?」
「山咲が私に聞いたんです。学校や寮に〈転送者〉が発生しない理由はなんだ、って」
「確かに学校に〈転送者〉が出ないのはなぜか、それとも出る可能性はあるのに、たまたま出ないだけなのか。それは大きな問題よ。学校の存続にかかわるほど」
「学校長は〈転送者〉が出ない理由、知っているんですか?」
「さあ、そこまでは。本当に、土地が安いからここにした、というだけかもしれないし」
「新庄先生は他に何か知っていますか?」
 新庄先生は視線を落とした。
「理由を知っている者がいるとすれば、それは〈扉〉の支配者か……」
「それは、そうでしょうけど」
「〈扉〉を研究している人、ぐらいじゃない」
 新庄先生は目を合わせようとしない。
「もしかして、先生は〈扉〉を研究している人と知り合いなんですか?」
「いいえ」
「……何かを隠しているような態度、やめてください」
 私は上体を起こした。
 体のあちこちに痛みが走った。
「大丈夫?」
「大丈夫です」
 新庄先生が、じっと私をみつめてくる。
「先生は、研究している人の名前を知っているだけ。いい、その人は『|白井(しろい)|健(たける)』よ」