「お腹が減るんです」
「若いから太らなくてうらやましい」
 清川が会計を済ませると、テーブルに戻ってきた。
「さあ、行きましょうか」
「はい」
 大通りへ進み、とちゅうで歩道橋を上がった。
 清川は立ち止まって、通りを見ている。
 車のライトがキラキラと光りながら、歩道橋の下を流れていく。
「綺麗ですね」
「すごい排ガスが出てるけどね」
「都心の人のまつ毛が長いのってそのせいだって聞きました」
「……それって都市伝説?」
「よくわかりません」
 清川が指をさした。
「あそこの店のことでしょ?」
 亜夢は清川に顔を寄せて、指さしている方向を確かめた。
 大きなガラスで囲まれた、綺麗な店。
「そうですそうです」
 清川と亜夢は歩道橋を反対側へ進んで下りた。
 しばらく歩くと、大きなガラスの建物が見えてきた。
「クライノートってブランドよ。ヨーロッパの王族へ宝飾品を提供していたって言われる古くからあるブランドね」
「へぇ」
 清川が何かに気付いて、振り返る。
 大きなエンジン音が聞こえてきて、路肩に止まった。大型のアメリカンバイク。
 清川がそっちをじっとみていると、亜夢が振り向く。
「あっ、昼間のバイク」
「えっ、なんて?」
 エンジンを切って、ライダーが柵を乗り越え、まっすぐ亜夢の方へやってくる。
「何、誰?」
 清川が両手を広げてライダーを制すと、半帽をかぶったライダーはホコリを飛ばすように小さく手を払う。
 それに合わせて、清川が見えない力で飛ばされる。
「清川さん!」
 清川の状況を目で追うが、それ以上にライダーの接近に注意がそがれる。
 かけていたゴーグルをヘルメットへずらす。
「あんた! 何するの!」
「……」
 一瞬、消えたかのように速度を上げ、亜夢に接近すると、拳を突き出す。
「いたっ……」
 亜夢はかろうじて手の平で拳を押さえる。
 ライダーはフェイスマスクで口元を覆っていて見えない。
 その手を引くと、今度は逆の側の足が亜夢の腹を狙う。
 吸いつけられるようにその足に両手が添えられる。
 バチン、と大きな音がする。
 手ではない何かと、足ではない何かが衝突したのだ。
「なにっ……」
 フェイスマスクのせいで、くぐもったようなライダーの声に反応したが、亜夢もキャンセラーを付けているせいで良く聞こえない。
「ちがう、キャンセラーのせいで……」
 ノイズが聞こえない替わりに、相手の様子もはっきり見えない。
 邪魔されないが、超能力が発揮しにくいのだ。
 目の前のライダーは超能力者に違いなかった。それも、かなり使える人物だ。
 スッと拳を差し出す。亜夢も同じように拳を出し、チョン、とそれに合わせる。
「行くぞ!」
 ライダーが引き、タメをつくってから拳を突き出してくる。
 亜夢もそれに合わせるように体を引いてから、拳をぶつける。
『この人は|超能力勝負(あいさつ)を知っている……』
 力の勝負。
 これによってお互いの能力測るのだ。
 バンっ、と大きな破裂音がして、ライダーと亜夢は拳が衝突したであろう空間を中心にはじけ飛んだ。
 亜夢は清川が転んでいるところまで、ライダーは止めていたバイクのある柵まで。
 距離的にはほぼ同じ。
「清川さん、これ持っててください!」