「ん……」
 制服を着た学生が歩いている。
「(みゆちゃんの高校……)」
 和洋ごちゃまぜになった皿を端から口に入れながら、通りを歩く学生を目で追っていた。
 学生たちは慣れているのか、亜夢の視線などは全く気にとめずに歩いていく。
 かなりの人数が歩いてきたせいか、亜夢は外をみるのを止め、食事に集中し始めた。
 和食を中心に食べ物を取り直して、席に戻ってくる。
 ホテルの従業員が呆れ気味に笑って見ている。
 亜夢がごはんを食べ終わり、ゆっくりとコーヒーを飲んでいるとホテルの従業員が近づいてきた。
「(食べすぎたかな……)」
 亜夢は一人ごとを言って従業員の方から、目をそらした。
「お客様、お知り合いの方が……」
「亜夢!」
 と呼ぶ声がする。すると、従業員の後ろから、葵山の制服を着た女子高生が手を振る。
「|美優(みゆ)ちゃん!」
「どうしたの、ここに泊まってるの?」
 ホテルの従業員はスッと下がっていく。
 亜夢の中で、無機質なビジネスホテルの喫茶店が、まるであの大通りの高級ブランドショップに変わったかのように見えていた。
 美優は、スッと椅子を引き亜夢の正面の席に座る。
「そうなのここに泊まっているの…… そうさ…… じゃなかった。ちょっと事情は話せないんだけど」
「へぇ、そうなんだ! それと、亜夢っていくつなの? 学校は? それとも会社勤め?」
「16歳だよ。学校は…… 学校には行ってるんだけど……」
 亜夢の表情ははれない。
 ヒカジョ、に通っている、とは言い出せない。
 それはイコール自分が超能力者、と宣言しているのと同じことだからだ。
「やっぱり! 私も、おない歳だよ。なら、同じ学年だね…… あっ、学校始まるから、私、そんなにゆっくりしてられないんだ。『リンクID』教えるから、放課後会おうよ!」
 美優のキラキラした笑顔に、亜夢もふっきれたように笑顔になる。
 亜夢がスマフォを渡すと、美優は素早くIDを入力する。
「うんっ! 連絡するから!」
 美優は慌てて去っていく。
 亜夢は見送ると、すぐにスマフォで『リンクID』にメッセージを打ち込む。
『また会えてすごくうれしいよ! しかも、こんなに早く会えるなんて』
 亜夢はコーヒーを飲み干すと一度部屋に戻った。
 制服のシャツだけを着て、下は昨日を同じデニムのパンツにする。
 昨日中谷に渡された、缶バッチ状のパトレコ、を肩のしたあたりに付ける。
 鏡を見ている亜夢の顔が、自然とほころんだ。
「だめ! 捜査協力なんだから気合いれないと」
 パチッと頬を叩く。瞬間はきりっとした表情になるのだが、またにやけてしまう。
「あぁ、早く午後にならないかな……」
 その時、電話がなって、フロントに清川が来ていると告げられる。
 亜夢はキャンセラーの位置を整えると、部屋を出た。
 清川と一緒に警察署につくと、加山と中谷が待つ部屋に入る。
 そこで、今日の捜査について告げられる。
「昨日、清川と乱橋くんで聞き込んだそうだが、あのビル周辺で聞き込みを行う。現場を見てそうなところを順番に回ろう」
 確かに、あのビルの上から見るよりは、周囲のビルからの方が見やすいだろう。カメラだけでは分からないことも、人に確認すれば分かるかもしれない。今までの経緯からも、あの周辺に超能力者がいるのは間違いないだろう。
 亜夢と清川は声をそろえて返事をした。
『はい』
「今日は勝手に行動しないぞ、乱橋くん。絶対に四人で回る」
「……はい」
 車に乗り込み清川が運転する。亜夢は加山と中谷に挟まれるように後ろに座る。
 いつものようにお寺の駐車場に車を回した。
「あっ!」
 亜夢は大声を上げた。
 それに反応して、清川も大声を上げた。
「あっ、あのバイク!」
「二人とも、車の中では静かに頼むよ」
 中谷が言う。
 亜夢と清川の視線の先には、大型のアメリカンバイクが止まっていた。
 清川は車を止めると、そう言って飛び出す。
「住職に聞いてくる!」
 亜夢はぐいぐいと中谷を押し出して、清川を追った。
「このバイクがなんなの?」
「昨日のと同じって、ことじゃないのか?」
 加山が中谷と反対側から降りると、そう言った。
「ああ、あの喧嘩になったっていう…… えっ?」