私の言った「父です」と父の「娘なんだ」という声が同時に部屋に響く。
 オレーシャは聞こえない、とばかりに手で耳をおおった。
「えっ?」
「だから……」
 もう一度、「父です」というと父は面白がってかわざと合わせてきて「娘だ」と言った。
 オレーシャはしゃがんで床を見つめてなにかブツブツ言い始めた。
「オレーシャ?」
 父はオレーシャの両肩手を置き、「立とうか」と言った。
 オレーシャはフラフラと立ち上がると、父にもたれかかった。
「どういうことなの?」
「私は白井公子の父だ」
「……」
 父の顔と、私の顔を交互にみた。
 何を思ったか、オレーシャは私の方に駆け寄ってきた。
「私がママになるのね。公子、寂しかったでしょう? 学校では先生だけど、学校をでれば私があなたのママよ」
 私は抱きしめられながら、父の表情を確認した。
 口の前で人差し指をたてている。つまり『黙っていろ』ということだ。
 私は父を睨みつけて、首を振った。
「オレーシャ、違うの。|義母(ママ)はまだいるのよ。あなたは父に騙されているんだわ」
 オレーシャの震えが伝わってくる。
 私はオレーシャを抱きしめ返した。
「オレーシャ、私の父が悪いことをしてごめんなさい」
 ブルッと大きな震えを感じた。
 私は声を出さず、父に『にげて』と口を動かした。
 抱きしめるというより、捕まえておくようにオレーシャに腕を回した。
「タケル!」
 父はいつの間にか部屋を出ていた。
「オレーシャ落ち着いて!」
 私の腕を両手ではらうと、オレーシャは父がいた方向へ走った。そして、出入り口と思われるところを目指して走って行ってしまった。
「オレーシャ!」
 私は追いかけるわけでもなく、その場で叫んだ。
 鬼塚刑事がすっと私の横に来て「きみの父を助けにいってくる」と言うと、大柄な体に似合わず、音もたてずに走り去っていった。
「……」
 私は一人残されてしまった。
 しばらくすると、大声で泣くオレーシャの声が近づいてきた。
 父も何かずっと声にだして説明しているが、ロシア語のようで何を言っているのかはわからない。
 父が入ってきた後、鬼塚刑事がオレーシャを肩に担いで入ってきた。
 足をバタバタとさせながら、オレーシャは鬼塚の背中で涙をぬぐった。
「話はついたの?」
「いや……」
「俺がオレーシャを押さえているから、話を済ませてきてくれ」
「は、はい」
「疲れるから、手早くたのむ」
 と鬼塚が言った。
 父は入ってきたのと反対側の出入り口を指さし、歩き始めた。私はそれについて行った。
 部屋をでると、サーバールーム側に進みそのままサーバールームに入ってしまった。
 中はこの前の戦闘で破壊された時と変わっていなかった。
「酷いもんだな……」