「もう一つ前のも見えるはずだよ。見てみる?」
 中谷はスライダを器用に動かすと、前のビルに入ろうとする場面になった。
 映像が、激しく動くと、ビルの角に何者かが隠れた。
「これです」
 パッと停止させると、また同じようにピンチアウトし、アイコンを叩くと、詳細な映像が現れる。
「あっちを向いているけど、さっきの人物と同じだね」
 中谷の言葉に全員がうなずく。
「どうせこの近辺の聞き込みなんだから、この人のことも聞いてみよう。いいですよね、加山さん」
「……」
 加山は腕組みをしている。
 なかなか返事がないので、たまりかねて清川が言う。
「それはまた後で考えることにして、食事頼まない? 店員さんずっとこっちを見てるし……」
 中谷が亜夢にメニューを手渡し、もう一つを加山の前に広げて見せる。
 清川がパラパラとメニューをめくっては悩んでいる。
「乱橋さん決まった?」
 ゆっくり指さしたのはラーメン・チャーハン・餃子『フルセット』だった。
 食事が運ばれてくると、亜夢が真っ先に食べ終わった。
 おそらく、フルセットはラーメン餃子を頼んだ中谷の2倍、担々麺を頼んだ清川の3倍はあっただろう。
「そんなに食べて、太らないの?」
「……」
 亜夢は自分のおなかを見つめた。
「そんなことはないです……」
「体重は?」
 清川は亜夢に耳を近づける。
「え~、やっぱり痩せてるよ、だってこの身長でしょ?」
「そんなことは……」
「やっぱり、ちょうの……」
 そのまま何を言おうとしているのか、加山が察知し、清川の口に手をあてた。
 あわあわ、という言葉が終わると、加山は手を放した。
「うかつだぞ」
 清川は手を合わせて謝った。そして、
「……非科学的潜在力のおかげなのかしら?」
 と、言い換えた。
「確かに、使うと実際に体を動かすよりずっと消耗しますよ」
「へ~」
「結局、何かをするときのエネルギーって同じなんですよ。私が風を起こしてコップを飛ばしたとします。それは扇風機でコップを持ち上げるのに、、どれくらいの電力を消費するのか、ってことと同じなんです。手でつかんで持ち上げるよりずっとエネルギーを消費する。そういうことなんです」
「なんか、納得できる感じがする」
 そう言いながら中谷は一生懸命メモをしていた。
「じゃあ、そのキャンセラーがなかったら?」
「それだけでも、ものすごく疲れると思います。これだけノイズがかかっていてもヒカジョは、そのなかでやっぱり何かを見ようと、読み取ろうとしてしまうので……」
 またメモを取った。
「ふぅん」
「さあ、行くか?」
 加山が言うと、全員がうなずいた。
 次の聞き込み先では、亜夢のパトレコに映っていたアメリカンバイクのライダー、フェイスマスクの人物についても聞き込みした。
 だが、事件当日の目撃情報や、そのフェイスマスクの人物についてもなかなか証言を得れなかった。
 ビルのフロアを上ったり下りたりし、可能な限り強力してくれる人全員の話を聞いた。
 中小企業や、大手の企業の分室、出張所があり、文房具店から本屋、花屋、短時間の間に、あらゆる職業、職種に触れたような気がした。
 その間、全員で注意しながら、フェイスマスクの人物が現れないか見ていた。しかし、こちらが注意しているのに気付いたのか、フェイスマスクの人物は現れなかった。
 そうやって何件もの聞き込み調査を進めていると、加山が時間を見て言った。
「どっかお茶でも飲んで、休憩するか」
「加山さん……」
 中谷が心配そうな声を出す。
「どっか具合でも悪いんですか? 絶対そんなこと言い出さないと思ってました」
「俺だって疲れたときはお茶ぐらいするさ」
 亜夢達は、聞き込みの途中で何度か通りすぎたカフェに戻ってきた。
 皆は席に座って、それぞれが頼んだコーヒーや紅茶、スイーツを食べ始めた。
「加山さん、これって経費じゃおちないんんじゃ……」
「これくらい俺がおごる」