「やったぁ!」
 と、清川が手を叩いた。
「!」
 亜夢が何かに気付いて振り返った。
 誰もいない。
 いや、カウンターの陰から、車いすに乗った長い髪の女性が現れた。
 店内は込み合っているのに加え、椅子と椅子の間が狭すぎて、その女性の車いすは通ろうとする周囲に何度も当たった。
 店員がその女性の後ろにたって、女性の車いすを押し始めた。
 車いすは、清川の後ろで止まった。
「ここ、開けて」
「お客さま、申し訳ありま……」
 清川は二の腕あたりを強く叩かれた。
「どいて」
 店員は無言で清川に頭を下げた。
「……」
 清川はおとなしく立ち上がり、椅子をもって下がった。
 亜夢はその女性の目を見ていた。
 しばらくすると、ゆっくりとキャンセラーをはずして、首にかけた。
 中谷と加山は亜夢とその女性を交互に見やった。
「申し訳ありません、こちら相席とさせてください」
 亜夢たちには、そう言って、かがんで車いすの女性に言った。
「ご注文いただいたお飲み物をおもちしますね」
「早くして」
 そう言うと車いすの女性は、髪を払うように後ろに送った。
「何見てるの?」
 亜夢はじっと車いすの女性を睨んでいる。
「睨んだって無駄よ。乱橋亜夢」
「!」
 亜夢の座っていた椅子が後ろに吹き飛んだ。
 椅子が飛んできたところにいた客が驚いて騒ぎ始める。
 しかし、まるでそうされることが判っていたかのように亜夢はその場に立っていた。
「非科学的潜在力?」
 清川がそう言うと、車いすの女を睨みながらうなずく。
 中谷は懸命にパソコンを操作している。何かを計測しようとしているのか、検索しようとしているのか。
「|宮下加奈(みやしたかな)」
「そうよ。それがどうしたの?」
 亜夢はそっと拳を前に突き出す。
「亜夢ちゃん止めて!」
 清川が叫びながら、亜夢の拳を押し返す。
「ここで力比べなんかしたら、大勢の人が怪我をする」
 今、そのことに気が付いたように亜夢が言う。
「あっ、ご、ごめんなさい」
「ふんっ!」
 車いすの女、宮下は清川の背中に頭突きをした。
 単なる頭突きではない。
 超能力のアシストが入っている。清川と亜夢、二人はさっきの椅子のように吹き飛ばされた。
 二人の体が、あちこちのテーブルにぶつかり、飲み物や食事がぶちまけられた。
「加山さん!」
 清川が言うと、加山が手錠を使って宮下を捕まえようとする。
「顕在力では捕まえられないわ」
 かるく払うように腕を動かすと、加山がバック転するかのようにひっくり返された。
 車いすをくるり、と反転させると、モーターでもつけているかのようなスピードで車いすが走り出す。
 注文していた男女に接触し、転ばせてしまう。
 宮下は気にもとめず、そのまま店の外へ出て、猛スピードで走り去ってしまった。
「加山さん、加山さん!」
 中谷が倒れている加山を抱き起し、呼びかける。
 亜夢が走り出して、店の入り口で加山と中谷を振り返った。
 清川が走って追いつくと、加山と中谷は、うなずいた。
「亜夢ちゃん、追いかけよう!」
 亜夢もうなずいた。
 亜夢と清川は店の外にでると、車いすが走っていった方へ走った。ビルの外に出ると、亜夢が目を閉じてアスファルトに手を当てた。
「……」
「わかる?」
 亜夢はしばらく手を置いていた。そして立ち上がり、寺の方向へ走り出した。