「な」
 鬼塚はものすごい勢いで山咲にせまる。
「に」
 私の翼が体にあたると、バランスをくずした山咲はまきびしの上に倒れていく。
 鬼塚が追いつき、まきびしのうえから山咲の体を押さえつける。
「ぐあぁぁぁ」
 鬼塚のトラになった顔が、銃を持った手にかみつく。
 背中にささったまきびしの痛みと、手に刺さった牙の痛みが交じり合った叫び声。
 次の引き金を引くことができず、山咲は銃を落とす。
 痛みに耐えかねたのか、目を閉じてしまった。
「危なかった」
 私は翼を背中に戻す。
「間に合うって言ったろ」
 鬼塚は人の姿に戻っていく。
「いえ、危なかったです。山咲はしっかり引き金を引いていました」
「当たらなかったんだから大丈夫さ」
「そういう問題じゃ…… それより、山咲は死んだんですか?」
「まきびしのささりどころが悪ければ死んでるだろうが」
 鬼塚は山咲を引っ張り起こすと、せなかのまきびしをぬいた。
「まだ生きているよ。ちゃんと、急所のまきびしはどかしたんだから」
「え、あの瞬間にそんなことしたんですか?」
 鬼塚は山咲の止血をすると、そのまま肩に担いで、通路を戻っていってしまう。
「オレーシャは?」
「目を覚まさせて歩かせろ」



 |螺旋(らせん)状の通路を、もう一周すれば入り口に戻れるところだった。
『そいつに構うな。突っ走れ』
 これは、ちょっと前の出来事。
『けど!』
 私は言った。
 視野の後ろに向かって、鬼塚刑事が走り去っていくのが見える。
 目の前には…… 巨大な〈転送者〉のしっぽがある。
 言われた通り、思い切り走ればなんとかなったかもしれない。
 二人を抱えている鬼塚は逃げるしかなかった。
『この状態では、お前を助けられない!』
「けど! 見過ごすわけには行かない」
 バシッ、と音がした。
 一瞬ののち、通路の天井を見ていることに気付く。何かに足をすくわれた、と、そういうわけだ。
 私は翼を出して床に転ぶのをまぬかれると、態勢を整えた。
 〈転送者〉が返しで振り戻してくる尻尾を、左足の爪で捕まえる。
「シャー」
「シャー?」
 後ろからの音に振り返ると、もうそこには鬼塚達の姿はなく、大きな口を開けた〈転送者〉がそこにいた。
 三角形をした頭部、うろこをもった肌。小さいが鋭い目、それらは蛇のそれと同じだった。|頸部(けいぶ)が平たく広がっており、巨大コブラと言ってもいい。
 その姿を認識するかしないかのうちに、バランスを崩して倒れてしまった。倒れた私の顔面を、離してしまった尻尾が勢いよく通りすぎる。
 退路を断たれた私は、この蛇タイプの〈転送者〉を倒さなければ助からない。
 寝転がったまま、右に左に体を回し、突きさすような尻尾の攻撃をかわす。
 立ち上がるタイミングが見つからない。
『大丈夫か?』
『ええ』
 テレパシーで答える。
 突き刺すような尻尾の攻撃をかわして足の爪で捕まえる。
 尻尾を戻す勢いを借りて立ち上がる。
 すると、尻尾が路面下に消えていく。
「!」