唾液をたたえた口が開いて、坂を滑り降りてくる。
 上下の空間が狭まっていて、この通路は翼を使う私には不利だった。
 右、左とフェイントをかけて、右前に飛びこむ。小さい目が私を捉えて動くのが分かる。
 口を交わすと、頭はUターンしようとするが、通路が狭くてできない。
 横目で見ている〈転送者〉は、今度は通路の壁と自分の体で私を押しつぶそうと動き始めた。
 丸い体と、通路の四角い角がつくる隙間をつかって、そこに身を沈めたり、前後に動いたりして〈転送者〉が通りすぎるまで耐える。
 おそらく、下の通路自体と、上下をつなぐ縦穴二つを使って尻尾と頭を出してたのだろう。
 そのうち通りすぎて、尻尾がやってくるはず。
 私は流れるように動く蛇のような〈転送者〉に足突き立てた。
 刺さった足が抜けず、体ごと流れに持っていかれそうになる。
 残りの手足を使って通路にとどまると、〈転送者〉の動きが止まった。
 このままの状態で前進すれば、体が裂けてしまう。
 こっちも必死に突き立てた足が抜けないよう、かつ、体が動かないように四肢に力を入れて踏ん張る。
「バックできないなら、このまま体を裂いてやる!」
 刺さった〈転送者〉の体の中で、爪を開いたり、閉じたりする。
 〈転送者〉の体が痙攣したように動く。
 と、突然、通路の穴に向かって前進を始めた。
 私は体を突っぱね、足を抜かない。
 前に進む分、〈転送者〉の体が切れていく。
「まさか……」
 徐々に〈転送者〉はスピードを上げていく。
 何度も何度もうろこが私の膝や股にあたり、足の刺さり具合は浅くなっていく。
 ということは……
 私は残る尻尾がある方向へ進む。こっちにある縦穴から頭を出してくるに違いない。
「目を狙う」
 体を低くして、〈転送者〉が顎をいっぱいに広げてきた状況を想像する。そして、かみつこうという攻撃を回避し、通路の壁を利用して三角飛びして、目を狙う。尻尾が消え去ったが、頭は出てこない。
「!」
 違う、おなじループを通るのではなく、したの螺旋通路を普通に上がってくるつもりだ。
 通路をまともに来られたら、ここで待つのは奇襲にならない。
 地響きのような音が後ろから聞こえてくる。
「ヤバい」
 私はその縦穴を飛び越え、足を人間のものにもどして通路を駆け上る。
「地上に出して、軍に処理してもらうしか……」
 うしろを振り向く。
 らせんのの外側へ立って、なるべく奥までのぞき込む。
 蛇のような〈転送者〉はやって来ない。
「……」
 あの縦穴を利用してもう一度転回するつもりだろうか。
 もう一度通路を降りていき、縦穴が見えるところまで戻った。
「あの地響きのような音はなんだったの?」
 殺気を感じて振り返る。
 軍だ、新たな軍の部隊が到着したのだ。
「大丈夫ですか?」
 私はうなずく。
『軍に任せて、お前は上がってこい』
 鬼塚のテレパシーが聞こえる。
「ここにいた〈転送者〉は蛇のような形態で、この縦穴を利用します。突然出てきてかみつかれるかも。あるいはこの奥から直接上ってくるかも」
「了解した。後は軍に任せてください」
 銃を構えた兵士が慎重に進んで来る。
 その兵士は銃以外に、兵士は何かを背負っているのだが、バッグではなく、金塊のようにツルンとした形状のものだった。
 いままで見た兵士が背負っているものと何か違うものを感じた。
「ドローンを飛ばせ」
 後ろの兵士が、手のひら大のクワッドコプターを数機飛ばした。
 腰から伸びているケーブルの先に、手に持っているスティックのついたものと、ゴーグルを使って操作しているようだ。
「縦穴の先は……」