亜夢はそう言って、別のカメラの映像を要求した。
「それなら、これかな……」
 中谷が切り替えると、車椅子の映像が映った。
「あっ、消えた」
「……ああ、このカメラの録画レートだと、ちょっとスピードが速いと消えたように見えるかも」
 中谷はおなじ映像を何度か繰り返すように操作したが、やっぱりどっちに動いたのかすら判定できない。
「そ、そんな。どっちに行ったかの見当もつかないじゃないですか」
「じゃあ、コンピュータで判別してもらうよ」
 中谷がノートパッドに指をするすると動かすと、画像と画像の間に何もないフレームが追加され、そこに映像が表示されていく。
「どこから映像を取り出しているんですか?」
「ここで補完しているのさ…… コンピュータが推測している、と言った方が分かりやすいかな?」
 亜夢の表情をみてとったのか、中谷はそうやって言い換えた。
「けど、消えたところはどうするんですか?」
「それも、前の画像の動きから予想をするんだよ」
 画像をみていると、一瞬車いすが止まる。いや、とまっているというか、車輪に『ブレ』がある。
「あっ」
 コンピュータが作り出した映像は、車椅子が上へ飛んでいくような映像だった。
 ものすごく早く、画像が強烈に『ブレ』ている。
「上?」
 中谷は首をかしげた。
 車椅子が浮く、わけない、というのが常識だ。
「もしかして」
 亜夢は映像の場所に立ち、空を見上げた。
 中谷は別の角度の映像を探し、車椅子が映っているものを見つけると、もう一度コンピュータで動きを予想させた。
 やはり同じように高速で宙に浮いている。
 亜夢は上空、ビルのへりをあちこち見つめた。
「中谷さん、ビルの屋上に監視カメラってないんですか?」
「屋上にあるとすると、屋上への出入り口をうつしたものしかないな。探してみるけど」
 亜夢が三人のところに戻ってくる。
 どこかのビルの屋根まで車椅子が飛んだ。とすれば、屋上にあるカメラに何か映るはずだ。
「そもそも屋上にカメラの設置がないみたいだね。残念だけど」
「けど、上に逃げたのは間違いないですよね」
 中谷は強くうなづいた。
「二つのカメラで、両方とも上空へ動いている、と推測しているからね。確度は高いよ」
「なら、それでいいです。車椅子ごと、この空間を飛ばせるとしたら、ものすごいことです。弾丸を弾いた力に匹敵するかも」
「さっきの車椅子の女が、例の事件とかかわりがある、ってことか」
 加山の声に亜夢はうなずく。
「初日に襲われたのもここでしたし、アメリカンバイクの人物、そして超能……非科学的潜在力を使う車椅子の女性がここに現れた。なにかここに非科学的潜在力を持った人物が集まる理由があるはずです」
 加山は遠くをみてぼやくように言う。
「……それがわかりゃ苦労しないんだよ」
 亜夢はすまなそうに頭を下げる。
 中谷はフォローしようと口を開く。
「確かに若干だが干渉波が弱いんだ。もっと徹底的に計測して、そいつらの居そうな場所を探そう」
「それよそれ。それ最初にやろうよ」
 清川が中谷に乗った。
「清川が手伝ってくれるの?」
「あたりまえじゃない。車を運転するから、中谷さんが記録をとって」
「いや、車じゃ早すぎる。清川にはアンテナを持ってもらって俺がパソコンで記録をつける」
「えぇ~~」
 清川は肩を落とした。
 加山は手を上げて言った。
「じゃあ、乱橋君を連れて俺は署に帰る」
「えっ?」
 亜夢は加山に肩を押されるように地下通路に消えていった。
「じゃ、アンテナを車に取りに行こうか」
「そこからなのね……」



 二人は地下鉄に乗り込む。
 空いた席を亜夢にゆずり、加山はその前に立ってつり革を握っている。
 加山は亜夢に言った。
「捜査は進展しているとおもうかね?」
 亜夢は戸惑った。
 正直、一切進展していないと思っているが、進展していない場合は『ヒカジョ』に帰らせてもらえないかもしれない。
「……えっと、それなりに結構進展しているような気がします」
「どこら辺が進展しているのかな」
 亜夢は思った。しまった、具体的なものはなにひとつわかっていない。
 さっき言った程度なのだ。