「通路の奥は百メートル先までなにも見つかりません」
「縦穴の先はどうなっている」
「本当に私達にまかせて、あなたは早くこの通路を出て」
 この軍の火力で本当にあの〈転送者〉を処理できるのか不安だった。
「あなたがいると、我々の武器が使えない。早くここを出るんだ」
 一番偉そうな人がそういうと、私はうなずいて出口へ駆け出した。
 私も軍がいる前では|超能力(キメラのちから)を使えない。
 急いで地下通路を上がっていく。
 息が切れて、膝に手をついた時、爆音が聞こえた。
「白井、走れ!」
 入り口の方からの鬼塚の声に、限界を超えて体が反応した。
 さっきの爆音が尋常ではないことが分かる。
 地響きのような音が追いかけるように聞こえる。
「避けろ!」
 地上にでると、素早く横へ体を投げ出した。
 見ると、入り口から様々な粉塵が、炎と共に吐き出された。
 しばらくすると、音も、吹き出る粉塵もなくなった。
 鬼塚が走り寄ってくる。
「大丈夫か」
「だぁっ…… ごほっ…… だいじょう…… んっ ぶっ」
 粉塵を吸い込んでしまい、何度もせき込んでしまう。
「さっき入っていった軍の人たちは……」
 鬼塚は問いに答えない。首を振るだけだった。
「そんな……」
 何の爆発だというのだ。
 軍が持っていた兵器には思えなかった。
 かと言って〈転送者〉が今までこんなに強力な爆発力をもっていたことはない。
 だとすると、入っていった兵士がコントロールすることができない何かが爆発したのだ。
 あらかじめ通路にセットされていたか、兵士にセットされていた。
「あっ……」
 あの兵士の背負っていた、ツルンとした台形のもの…… まさかあれが……
「この|瓦礫(がれき)が蓋の代わりになる。〈転送者〉が現れる可能性がある」
 鬼塚が、地下通路の入り口をのぞき込もうとすると、上空からのライトで照らされる。
「ん?」
「軍のヘリのようね」
 激しくライトが点滅する。
「どけってことか。ふん。軍の後始末は軍でするといい」
 鬼塚は私の肩を叩き、車を指さす。
 私はうなずき、車を目指す。
 後部座席にオレーシャ、山咲、そして私が座った。
 助手席に、手足を縛った似せ山咲を座らせる。
 軍のヘリが次々に着陸し、小型のショベルカーが何台か下され、次々に地下通路に入っていく。
「片付けまで先に用意済みだった…… ってこと?」
 鬼塚は私に視線をすこし向けただけで、何も答えなかった。
 おそらくそういうことだ。と私は予想した。
 軍が、先行隊に何か強力な火力を持たせ、リモートから爆破した。
 爆破の後始末の部隊をあらかじめ用意しておき、数分後に到着するようにしていた。
「酷い」
「……」
 鬼塚は無言で車を出発させた。
 
 
 
 高速を走らせていると、鬼塚のスマフォがなった。受け取った私が代わりに受け取って鬼塚の耳にあてる。
「鬼塚だ」
『ウエスト・データセンターで白井健はみつかりませんでした』
「なんだって?」
『〈鳥の巣〉のゲートも出ていません。研究施設にも戻られていません』
「報告が遅れたが、こっちは百葉高校の通学路に〈転送者〉用の扉を作った容疑者を捕まえた」
『では、〈鳥の巣〉の分署で引き受けます』
「わかった。これから分署に向かう」
 私は代わりにスマフォを切ると、鬼塚に返した。
「父は……」