「見つかってない。しかし、ウエスト・データセンターには他に車はなかった。先生を連れてる限り、そう遠くへはいけないはずだ」
 まさか父が連れ去られてしまうとは……
 もし自分が助けなけらばならない場合は、自分がもう父の知っている娘ではないことがバレてしまう。
 しかし、この〈鳥の巣〉内では、自分が探さなければ、父は永久に見つからないかもしれない。
「そういえば、これから向かう、ぶんしょっなんですか?」
「ああ、〈鳥の巣〉の中にある警察署のことだ」
「こっちの山咲さんのいるところ?」
「そうだ」
「遠いの?」
「遠くはない。ゲートの近くだ」
「そう」
 車は高速を降りて、ゲート近くにある砂倉署の分署に向かった。
 小さな建物だったが、窓や扉がないため、灰色の石板のように見える。
「ここも扉がないの?」
「あたりまえだ〈鳥の巣〉の中だぞ」
「けど、どうやって捕まえておくのよ?」
「手錠をして、建物のパイプにつなぐのさ」
 鬼塚が車を降りると、中から分署の警察官がやってきて偽山咲を捕まえて連れていく。
 ストレッチャーが運ばれてきて、オレーシャが乗せられる。
 本物の山咲は、鬼塚に頬を叩かれて目が覚める。
 私はオレーシャのことを聞いた。
「あの、先生をどこに連れていくんですか?」
「先生? このロシア女性のこと?」
「そうです」
 ストレッチャーの前にいた女性警官がこっちに向かって歩いてくる。
「簡単な検査をして〈鳥の巣〉の外の病院に運びます。心配しないで」
「お願いします」
 分署の方に行っている鬼塚が手招きする。
 私は会釈をしてから鬼塚の方へ走っていく。
「ちょっと確認してくれ」
 鬼塚が持っているタブレットに映像が映る。
 どこかの監視カメラのものだ。
「?」
「白井健先生…… に見えるが、間違いないか?」
「……たぶん。どこの監視カメラですか?」
「ゲートだよ。誰かに連れ去られたんじゃない。先生は自分でゲートの外に抜けた」
「なぜ?」
 タブレットを警官に渡すと、鬼塚が言う。
「君にはわかるんじゃないのか? ウエスト・データセンターで先生と何を話していた?」
「何って〈転送者〉が出る理屈を教えてもらっていました」
「……それだけ?」
「それだけです。百葉高校の通学路にだけでるのは、〈鳥の巣〉の外のアンテナが影響しているって」
 鬼塚は隣にいた警官と顔を見合わせる。
「それは本当か?」
「ええ。球を描いて説明してもらいました」
 警官が差し出したタブレットに指で絵を描く。
 絵は汚かったが理屈は伝わったようだ。
「まさか先生は実験しようとしているんじゃ」
「アンテナを特定するための実験?」
「偽山咲がやっていたことと同じこと、ですか?」
 私がそういうと、タブレットを持った警官はうなずいた。
「マズイな……」
 鬼塚は顎を指でなぞるように撫でた。
「なにがまずいんです?」
「いや。考えすぎだといいんだが。とにかく、先生を追いかけよう。一緒に来い」
「は、はい」
 鬼塚についていくと、ゲートの検査を優先的にパス出来た。
 ゲートの外の車に乗り換える時、ふとゲートを見上げた。
 これが本当に〈扉〉ではないと、いったい誰が決めたのだろう? と思い、寒気がした。