そういって鬼塚は電話を掛ける。
 通話をしている間、私は屋上の回りを歩きながら、ビルの外を眺めていた。
「考えすぎ、だったのかも」
 ここにも、向こうにも父は行かなかった。
 もしかして、来なくてもいいのかもしれない。
 頭の中で父がホワイトボードに描いた絵を思い出していた。
 あの図だと、もう一つが拡大すれば、重なる部分も拡大する。
 大きなゲートから〈転送者〉を呼び出したければ……
 私は確かめるように声を出した。
「セントラルデータセンターの中心をずらすか、出力を上げる」
 じゃなければ……
「〈巨大電波塔〉側のアンテナをずらすか、出力を上げる」
 実際、〈巨大電波塔〉で父は目撃された。ここにアンテナがあるのは間違いないのだろう、ということは……
「出力を上げた???」
 私は急いで鬼塚のいるところへ戻った。
「鬼塚刑事、もしかして父は、アンテナの出力を上げたのかも。それなら、アンテナを動かさなくてもいい」
「鬼塚刑事」
 屋上の入り口から声がする。
「鬼塚刑事、白井さんというからがお見えです」
「!」
「白井、屋上の入り口に行くぞ」
 屋上の入り口に、父が出てきた。
 鬼塚は、父の襟を掴むと片手で持ち上げた。
「ぐっ…… 苦しい……」
 これでは完全に鬼塚刑事の方が悪役だ。
「やめてください。父に何をするんです!」
 腕にぶら下がろるように抵抗するが、鬼塚は父を持ち上げたままだ。
「話す、事情を話すから……」
「そのままで話せ」
「っ、ここへ、〈扉〉の支配者の命令を受けてアンテナを持った連中がやってくる」
 父は懸命に鬼塚の手を外そうとしている。
「だが、手遅れだ」
「なんだと!」
 鬼塚はさらに手首を効かせてクビを締める。
「ごほっ……」
「死んじゃう!」
 鬼塚はようやく父を下した。父は壁に背中を預け、話をつづけた。
「アンテナは正確にこの位置でなくても機能する。ここに警察がいると判断すればさらに内側に入ればいいし、別の建物でも、なんなら地下でもいい」
「円の内側なら問題はないわけね」
「もともとあったアンテナが〈巨大電波塔〉であったのは正解だった。だが、それを外されたら、もう分からない。今度は目立つところに立てる必要はないんだから」
「白井先生、あなたがアンテナを奪ったんじゃないのだな?」
 父はうなずいた。
「私が先回りして〈巨大電波塔〉のアンテナを破壊するつもりだった。だが間に合わなかった。アンテナは奪われた」
「〈鳥の巣〉のゲートの工事を止めさせるしかない」
「見たところゲートはもう機能してしまう。それより、あのゲートから出てくる巨大な〈転送者〉と戦う手段を手に入れるべきだ」
 父は私の顔を見た。
「……」
「ゲートの近くに行って、ちいさな扉をつくる。〈扉〉が開いたら俺と公子でそれを見つけに〈扉〉の向こうへ行く。刑事は万一その小さい扉から〈転送者〉が出た場合に対応するため、待機してほしい」
「父さん、もしかして」
「そうだ。お前が隠している事実について、ある程度理解している」